Dr.森田の医療・介護お悩み相談室

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県で診療・執筆・講演・研究・web発信などをしている。南日本ヘルスリサーチラボ代表、鹿児島県 参与(地方創生担当)

病院がなくなって夕張市民が『健康になった』なんて嘘ですよ!

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かなり前の記事ですが、
(NHK「AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン」(2017年7月22日放送)についての記事)

 

仕事で夕張について検索してたらでてきたのでご紹介します。

 




実はこの番組で紹介されていた夕張の件については、NHKの番組スタッフさん(いい人でした)から僕にも取材の電話がありました。


でも、番組の概要を聞かせていただいた時点で、「協力は惜しまないが、内容には賛同しかねる」とお答えしていました。


まさに「因果関係不明」な事例を「AI」の名においてそれらしく伝える内容だったので。


この辺の「相関関係≠因果関係」というのは、津川先生・中牧先生の「原因と結果の経済学」にわかりやすく書かれているのでこちらをお読みください。
 

  

 

ちなみに、記事でご指摘の

 

「筆者(津川)は実際に夕張市の周辺の市の透析施設で勤務したことがあるが、透析が受けられなくなって通院が大変になったために引っ越したという患者さんを担当したことがある。」

 

 

の部分ですが、こうした

「透析患者や重症患者が市外に引っ越したから市民全体の医療費・死亡率が低下した説」

のご指摘は非常に多く頂きます。

 

津川先生はそうした方を担当された、と記事にありますが、逆に僕は「夕張に住んで市外まで人工透析に通っていた方々」を多数知っています。

 

実際に隣市の透析病院・クリニックは、夕張市まで患者さんの送迎バスを出しています。

 

 こうなると実際の統計データに当たるしかないわけです。

で、データにあたったところ、、

 

『透析患者』の数は財政破綻後も減っていなかった(横ばい)

 

でした。


これ、社会保険旬報の報告でも説明したのですが、
詳しすぎて分かりにくいのでみなさんあまり読んでくれない(^_^;)

「夕張市の一人あたり高齢者診療費減少に対する要因分析」(社会保険旬報No.2584, 2014.11.1)
http://www.shaho.co.jp/shaho/teiki/junpo/j2014/20141101_morita.pdf

 


ですので、拙著「破綻からの奇蹟〜いま夕張市民から学ぶこと〜」の末尾で
「補足:重症患者の市外への大規模流出は発生しなかったのか」でもわかりやすく説明しています。

 

簡単にまとめると、

 

 

◯重症患者の代表格である「透析患者」の数は財政破綻後も減っていなかった(横ばい)。


◯そもそも、重症患者を多く含むことが予想される後期高齢者の人口は減るどころか財政破綻後も一貫して増えていた。


◯また、夕張市民が市外に引っ越すには大きな経済的負担が発生する(夕張市民は多くが公営アパート住まいで、アパート代は数千円〜数万円。札幌などと比較して半額以下。持ち家の方の引っ越しはさらにハードルが高い)ため、特に重症患者を想定した場合考えにくい。仮に市外に居を構えて転居したとしても、医療費・介護費に関しては多くの場合『住所地特例』が適用されて夕張市で計上されるため、それでは説明がつかない。

 

 

そんな感じです。

 


 ていうか、諸々の記事でタイトルをセンセーショナルに付けられることが多く、また動画や講演のダイジェストでは時間制限もありかなり誤って伝わることが多いのですが……

 

実は、


「病院がなくなって夕張市民が健康になった」なんて、そんなわけないのです。


事実、夕張市民の「総死亡率」は変わっていません。横ばいです。

 


この辺は、論文・著作で何度も言っています。

 

ただ、僕が言いたいのは、まさに津川先生の記事中にもあることとまったく同じことで、

 

「実はアメリカではそのような研究がすでに行われており、「病院の閉鎖」と「地域住民の入院率」や「死亡率」のあいだに因果関係はないという結果が得られている。病院が閉鎖しても、人々の健康状態はよくも悪くもならない可能性が高い、ということだ。」

 

これ、ズバリそのもの。

 

医療経済学の中では当たり前のように語られるこの定説。

 

でも日本ではそれが周知されることなくいまだに、「病院信仰」が根強くあります。
(地域に病院がなくなるとなれば住民運動が巻き起こります。)

 

そして医療従事者も、「病院信仰」を上手に使います。
それはこのグラフに如実に表れています。

 

 

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病床数の状況(平成24年度) - 神奈川県ホームページ

 

ちなみに、県によってこれだけ医療費が違うのに、県民の平均寿命や健康度にはほぼ関係がありません。

 

日本一平均寿命が長いのは病床が少ない長野県です。

 

それに象徴されるように都道府県別の人口あたり病床数と平均寿命の相関関係数も非常に低いのです。
 

 

夕張市の事例でもっとも重要なのは、
地域に唯一の「病院」がなくなったことによって

 

「病院があってもなくても健康にはさほど影響はない」

 

という「不都合な真実」が日本でも実際に証明されたことなのだと思います。

 

しかも、夕張の場合は、病死が減った代わりに老衰が増え(だから健康になったということではなく、これは診断する医師が医師ー患者(家族)の信頼関係を築いて「老衰」と診断できる家庭医的な医師に代わったため)、救急出動が半減し、医療費も減ったのです。(この2つは結構すごいことだと思います。)

 

 

さらに言えば、その下地には

・「予防と天命を受け入れる市民の意識改革」
・「住民の生活を支える医療・介護の構築」
・「高齢者の生活を支えるきずな貯金(Social Capital )」

の存在があったという、

よく考えれえば当たり前だけど日本ではあまり認識されていないこと。

なのです。

 

だからこそ、今でも全国の方々から注目されているのだと思います。

 


その辺はかなり詳しくこちらで説明していますので、是非読んでみてください。
 ↓ ↓ ↓

 

 

 

 

 

あわせて読みたい

 

f:id:mnhrl-blog:20180325134339j:plain 〇〇〇が多い県に住むと医療費が2倍に!? 〜京都大学経済学部・特別講義〜

 

無料立ち読み版・破綻からの奇蹟〜いま夕張市民から学ぶこと〜 無料【立ち読み】版 『破綻からの奇蹟〜いま夕張市民から学ぶこと〜』

  

 

 

更に詳しく知りたい方へ

 

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財政破綻・医療崩壊・さらに高齢化率日本一。
悪条件に取り囲まれてしまった夕張市。
果たして夕張市民の命はどうなってしまうのか?‥。


破綻後に医師として乗り込んだ筆者は、
それでも夕張市民が笑顔で生活していたことに驚く。
事実、財政破綻後のデータは夕張市民に
健康被害が出ていないことを示していた。

「病院がなくなっても市民は幸せに暮らせる! 」

もしそれが事実なら、一体なぜなのか?

本書は、その要因について、先生(元夕張市立診療所所長)と
生徒2人の講義形式でわかりやすく検証してゆく。
夕張・日本・世界の様々なデータを鳥の目で俯瞰し、
また夕張の患者さんの物語を虫の目で聴取するうちに3人は、
夕張市民が達成した奇蹟と、その秘密を知ることとなる・・。

少子高齢化や財政赤字で先行きが不透明な日本。
本書は、医学的・経済学的な見地から日本の
明るい未来への処方箋を提示する希望の書である。

 

森田洋之 著

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