Dr.森田の医療・介護お悩み相談室

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県で診療・執筆・講演・研究・web発信などをしている。南日本ヘルスリサーチラボ代表、鹿児島県 参与(地方創生担当)

70代こそ地域包括ケアの旗手!いつのまにか「ソーシャル・キャピタル(きずな貯金)」を育んでしまうオジさんの話。

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志々目芳郎さん(71) 
 いつのまにか「ソーシャル・キャピタル(きずな貯金)」を育んでしまうオジさん

 

 

 

 今回は、宮崎県宮崎市で、勝手に

「ソーシャル・キャピタル(きずな貯金)」を育んで、

地域包括ケアに貢献しているオジさん(僕の義父)の話をしようと思います。


 義父は志々目芳郎さん(71歳)、元警察官で柔道5段の元気なオジさんです。
 仕事を引退後は特に働くこともなく、悠々自適の暮らしを送っていました。

 


勝手に環境美化活動


「元気なのにもったいないな〜」

と思っていたら、何を思い立ったか、ある日、

 

「歩道に雑草がはえてて汚い〜」

と言い出して、道路の雑草を抜いて回るようになりました。

ついでにゴミ拾いもするようになりました。

 

そのうち、

「そこに花を植えよう」

と言い出して、勝手に花を植えるようになりました。


それがこの写真。

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この道路には、近所の人々が集う『百姓うどん』というお店もあります。
もちろん、そこの駐車場も掃除しちゃう。

 

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お店の方も大喜び。
いまやお店のご主人と大の仲良しで、ちょくちょく飲みに行ってます。
 

 

 

勝手に畑作り!


 義父の家のすぐ横に、草ぼうぼうの空き地がありました。
地主さんは遠方にお住まいで、年に何回も草刈りや掃除に来られるのですが、
南国宮崎の雑草の勢いは凄まじく、そんなものでは追いつかない!
すぐに雑草が生い茂り、荒れ地と化します。
草ぼうぼうの空き地にはゴミが捨てられやすい…
結果、ゴミだらけになります。
虫やヤブ蚊も湧くので、ご近所からも苦情が来て地主さんも困っていたそうです。

 地主さんが遠方から草刈り・ゴミ掃除に来られるたびに義父は一緒に手伝って、
ひと仕事終わったあとには一緒にお酒を飲むくらいに仲良くなっていたのですが、
ある時、

「もういっそあの土地、畑にしちゃっていい?」

と聞いたそうです。
地主さんは大喜び、地元の人が毎日足を運んで管理してくれれば、
雑草問題もゴミ問題も、ヤブ蚊問題も一気に解決。
毎年何度も足を運んでいたガソリン代も浮いちゃいます。


それがこの畑。

 

 

 

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 子どもたちの遊び場にもなっています。
収穫した野菜は、通りすがりの人や近所の人たちに配っています。

 

 

 

 市役所も認めちゃった!?


 と、ここまでの活動。全て自費&ボランティアです。
宮崎市はゴミ袋も有料…。花の種も苗も全部自費です。

 

義父は思いました、

「花の種とか苗くらい、市からもらえないかな?」

 

そこで市役所で聞いてみると、

「個人ではダメです。、、、でも、、(コソッと)二人以上なら団体として申請出来ますよ・・。

 

と。(どうやら、義父の活動は市の耳にも入っていたようです。)

 

 そこで義父は、

「道路沿いの商店や個人宅の人たちの名前を借りて、団体にしてしまえばいいだろう」

と考えました。

 

 とはいえ…

東京の人から見れば宮崎県なんて九州の片田舎に思われるかもしれませんが…

いまや宮崎市内の住宅地だって都市化しています。

昔ながらの農村風な人間関係なんて昔の話。

どの店に行っても、個人宅に行っても、顔も名前も知らない人達ばかりです。

知らないオジサンがいきなり「名簿に名前・住所を書いてくれ」なんて訪ねてきたって、普通断りますよね。

 

 ということで、さすがの義父も躊躇したそうですが…

でも、勇気を出して各店・各家を回ってみると・・・

ほぼ全ての反応が、

 

「いつも掃除をしてくれて、きれいに花を植えてくれてありがとう!名前くらいならいくらでも書きますよ!」

 

と言うものだったそうです。

 

で、出来たのがこの名簿。

 

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 (いつも一緒の名犬さくらにちなんで「さくら会」)

 

 あっという間に、こんなに集まったそうです。
やはり、こうした活動は地域の人たちからも大きな賛同と称賛を得ていたのですね。

 

 

 

いつの間にか『地域包括ケア』


 元警察官で今は普通のオジサンの義父です。
おそらく「地域包括ケア」なんて言う言葉、聞いたこともないでしょう。

 

 でも僕には、義父のこの活動が「地域包括ケア」の最も重要な部分に思えて仕方がありません。

 

何故かって?

 僕は仕事柄、離島や僻地へ行くことが多いのですが、
そういう田舎にいくと、

「認知症が顕在化しない」

という現象を目のあたりにすることがよくあるのです。

 

 例えば僕が以前居た夕張市では、

けっこう重度の認知症(長谷川式で12点くらい)の80代の婆ちゃんも、

日々徘徊しながらも、一人暮らしが出来ていました。

彼女は、近所中の雪かきもして地域に貢献していました。 

 

 一番すごかったのは100歳超えた、

かなり重度の認知症(長谷川式で5点くらい)の婆ちゃん。

彼女も徘徊していましたが、これまた一人暮らしを継続していました。

 

 

 

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80代で重度の認知症でも独居!のお婆ちゃん(朝一番、誰より先に雪かきをしているところ)

 

 


「そんな危険な!」

という声が今にも聞こえてきそうです。

でも、それって誰にとって危険なのでしょうか?

彼らは自分の意思で独居を継続し、地域に貢献しているのです。

 

「認知症なのに地域に貢献出来る?」

出来ます。

今日の朝ごはんに何を食べたかは覚えていなくても、

昔から住んでいる地域の道、

幼いときから毎日やっている雪かきの仕方、

こんなものは体が覚えています。

出来ることはたくさんあるのに、

僕らがそれを取り上げちゃってるだけなんです。

 

 いや、それでも徘徊はあります。

でも、多少徘徊していても、地域の人々の何気ない見守りさえあれば、

大きな問題にはなりません。

何気ない会話をして、「さあ、帰ろう」で終わりです。

それは徘徊ではなく、ただの「散歩」になってしまいます。

 

 

 こうした地域の暖かな人間関係を、学術的には

 

『ソーシャル・キャピタル』

 

と言います。(僕は勝手に『きずな貯金』と意訳しています。)
その重要性は、ハーバード大学のイチロー・カワチ先生が繰り返し主張されているところで、曰く

 

「日本人の長寿の秘密は、遺伝でも食事でもなく、地域の『ソーシャル・キャピタル(きずな貯金)』」

 

とのこと。

  ↓↓↓
ハーバード大学 イチロー・カワチ教授の調査結果を特別公開
   日本人はなぜ長生きなのか---3万人の調査でわかったこと
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33482

 

 

 愛知県のある地域で65歳以上高齢者を追跡調査したところ、

アンケートで「地域の人を信頼できる」と答えた人が多い地域は、

そうでない地域より要介護になる人が4割も少なかったとのこと。

 

 厚生労働書の地域包括ケアの図だって、その想定範囲は『中学校区』で、その中心は『住まい・暮らし』です。

 

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 『地域包括ケアシステム』というと、

『在宅医療の充実』とか
『医療と介護の連携』とか

そうしたことが強調されがちです。

でも実は、『ソーシャル・キャピタル(きずな貯金)』があれば、

 

要介護にもなりにくい!
なったとしても顕在化しにくい!

 

 もし本当にそうなのだとしたら、
いま我々がやるべきは、『医療・介護の充実』ももちろんですが、
『ソーシャル・キャピタル(きずな貯金)の充実』も強調されるべきなのではないでしょうか。


 そう考えると、義父のあの活動こそが、
『地域包括ケア』に最も貢献する活動なんじゃないかと思えてきます。

 

 

…近所をよ〜く見てください。あなたの周りに、

『リタイアしたけど暇そうなオジさん』はいませんか? 


もしかしたら、これからはそんなオジさん達の活躍が、


『ソーシャル・キャピタル(きずな貯金)』の鍵を、

そして

『地域包括ケアシステム』の鍵を握っているかもしれないですね。

 

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志々目芳郎さん(愛犬さくらと孫達と。)

 

 

 

 

 

 

 

 

秘密は… 『きずな貯金』

 

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財政破綻・医療崩壊・さらに高齢化率日本一。
悪条件に取り囲まれてしまった夕張市。
果たして夕張市民の命はどうなってしまうのか?‥。


破綻後に医師として乗り込んだ筆者は、
それでも夕張市民が笑顔で生活していたことに驚く。
事実、財政破綻後のデータは夕張市民に
健康被害が出ていないことを示していた。

「病院がなくなっても市民は幸せに暮らせる! 」

もしそれが事実なら、一体なぜなのか?

本書は、その要因について、先生(元夕張市立診療所所長)と
生徒2人の講義形式でわかりやすく検証してゆく。
夕張・日本・世界の様々なデータを鳥の目で俯瞰し、
また夕張の患者さんの物語を虫の目で聴取するうちに3人は、
夕張市民が達成した奇蹟と、その秘密を知ることとなる・・。

少子高齢化や財政赤字で先行きが不透明な日本。
本書は、医学的・経済学的な見地から日本の
明るい未来への処方箋を提示する希望の書である。

 

森田洋之 著

 

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