Dr.森田の医療・介護お悩み相談室

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県で診療・執筆・講演・研究・web発信などをしている。南日本ヘルスリサーチラボ代表、鹿児島県 参与(地方創生担当)

【地域包括ケアシステムのありえない巨星!】澤登久雄(地域包括支援センター入新井・みま〜も)の偉業とは?

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『毎日ここで高齢者から生活支援の相談を受けていて、ある時ふと思ったんです。ここに来てくれるのは地域にそれなりにつながりがある人達。もしかしたら、ここに来れない人、たどり着けない人、SOSを言えない人達が、想像以上にたくさんいるのでは?そう思って地域に出てみると、つながりの乏しさから支援につながらない、困っている高齢者さんたちがどんどん浮かび上がってきました。そうなるともう、センターでの支援が「もぐらたたき」に思えてきちゃって・・『もっと早く支援に結びつけばここまでにならない人たち、本当に支援が必要なそうした多くの人たちに対し、我々はアプローチできていないのでは?もしそうなら、我々はその人達に一生会えない。そんな仕事に意味はあるのか?』って。そう考えたらもう止まらなくなっちゃって、センター長になってまだ1年だったんですけど、仲間を募って『高齢者見守りネットワーク・みま〜も』という組織を作ったんです。』

 


 そう語るのは、大田区地域包括支援センター入新井のセンター長(当時、現在はさらにご出世されて「牧田総合病院地域ささえあいセンターセンター長」)澤登久雄さん。僕は、澤登さんの話を初めて聞いた時、そのあまりにすごい取り組みの連続に驚愕し、正直なところ(恥ずかしながら)にわかには信じることができませんでした。なぜならそれらは、僕が知っていた他の地域包括支援センターの仕事とは、遥かに次元の違うものだったからです。
 なぜ、『みま〜も』はここまでの取り組みが出来たのか、今回はその経緯と、事業の概要について澤登さんに語っていただきました。

 

みま〜もを作ってもうすぐ10年になりますが、この10年を振り返ると、3つのステップがあったと思います。最初は、まず「みま〜も」という組織を作るステップ。「SOSの声をあげられない人にも支援を届けたい!」とどんなに意気込んだところで、僕達包括支援センターの職員はすでに毎日の多大な業務を抱えており、職員が直接一軒一軒の家を訪問したり、見守ったりするわけにはいかない。じゃ、どうする?で考えたのが『仲間を増やす』という方法でした。つまり、定期的なイベントとかセミナーと通して地域の人々に僕達の仲間になってもらって、「◯◯さんって人が近所にいるんだけど、ちょっと困ってるみたい」など、地域住民から様々な情報を得られるようになれば、指数係数的に『見守りのネットワーク』が広がるんじゃないか?と。

 

〜具体的にはどのような活動なのですか?

 

まず、地域のデパートのイベントスペースを借りて、月一回のセミナーを開催しました。講師は地元の専門機関で働く医師・看護師・薬剤師、さらには警察・消防・行政職員などの専門職、聴くのは高齢者を中心とした地域の方々。遠方の偉い先生に来ていただくのではなく、地域の専門職にセミナー講師をしてもらうことで、「何かの時はこの人たちが支えてくれる」と参加者は思えます。

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一方で講師は「専門職として、いま地域の人たちに何が必要なのか」を考えなくてはなりません。こうして地域住民と専門機関が縦糸でつながっていく。

 

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また、このセミナーの中で専門機関同士の横糸の連携も生まれます。僕たちはこれを『対応のネットワーク』と言っています。実際に、みま〜もの横の連携からこれまでに多くの新しい事業が生まれています。

  

〜新しい事業まで生まれているんですね!全国でいろいろな多職種連携が行われていますが、そこまでの連携が生まれる事例は珍しいと思います。

 

みま〜もの場合、専門機関の皆さんには協賛企業として毎年の協賛金を頂いていますし、毎月のセミナー運営も持ち回りで協賛企業が行います。セミナーの運営は、講師の選定から会場の準備、集客などけっこう大変なのですが、そうした一見煩わしいと思われる実務での連携の中で本当のネットワークが生まれるのだと思います。

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〜なるほど、そうした活動をされている地域包括支援センターはなかなかないですよね。

 

そうですね。実は「みま〜もキーホルダー」が生まれたのもこの時期です。セミナーの打ち合わせのために集まった医療ソーシャルワーカーから、

『地域の高齢者の方々の不安は何なのか?その一つに外出中の緊急時に身元確認が出来ないかも知れないという不安もあるのでは?』

という話題が出され、そこから始まったのがこの事業です。高齢者の方には、事前に住所氏名・病歴・薬歴などの個人情報を登録してもらいます。すると個人に割り当てられた番号が入ったキーホルダーが渡されます。

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キーホルダーには担当する地域包括支援センターの電話番号と共に、身元が分からないときは連絡するよう記されています。これで、『出先で緊急搬送された場合などでも、個人情報・医療情報の確認を行うことができる』という安心感が生まれました。実際に、路上で倒れ救急搬送された方や、認知症で自宅に戻れなくなった方など、キーホルダーによって身元が確認された事例も多数あります。年に1回の情報更新も、繋がりの強化につながっています。この事業は開始直後から反響が大きく、開始後3年で区の正式事業として採択されました。現在、大田区65歳以上 人口の約5分の1に当たる3万7千人が登録しています。

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〜いち包括支援センターの活動としては、考えられないくらいの活動量ですよね。

 

そうですね。でも、たしかに月一回のセミナーで、地域の専門職同士の横のつながり『対応のネットワーク』は生まれましたし、専門職と地域の高齢者をつなぐ縦の繋がりもできました。それはそれで良かったのですが、でもこの時はまだ、高齢者の方々は『お客さん』でした。セミナーにお客さんが毎回100人集まって大盛況!でも、セミナーが終わったら「いい話が聞けたね」で帰ってしまう。キーホルダー事業もそうですね、まだ高齢者が「自分ごと」として「主体的」には関われていない感じがして、物足りなさを感じていました。・・つまり、まだ高齢者同士の横のつながりが十分構築できていなかった。これでは、当初の目的の『つながりの乏しさから支援につながらない、困っている高齢者の方々を見守るネットワーク』ができていない。そんなとき、駅前商店街の裏の線路脇に、荒れ放題でほとんど利用されなくなっていた公園を見つけたんです。『よし、じゃ、この公園を地域のひとたちみんなできれいにしちゃおう!そしてみんなで集まって体操したり、談笑したり出来るスペースにしよう!』と思いつきました。人の話を聴くだけの受け身の活動ではなく、主体的に自らの身体を動かす活動ですね。区の許可も取れたので、それまでセミナーに参加してくれていた地域の方々、高齢者の方々に呼びかけて、みんなで草をむしったり、柵のサビを落としたり、ペンキを塗ったり、花を植えたり。遊具をきれいにしたり。

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〜それはすごいことですね。公園の整備まで!

 

でも、この頃は迷いもありました。全国の地域連携の流れは、地域ケア会議などで専門職が集まって事例検討会などをやるものでしたから。一方僕たちは『公園の草むしり』です(笑)。『こんなことしてていいんだろうか』と焦ることもありましたね。

 

〜でも、やりきったんですね。

 

そうですね。やりきったのかはわかりませんが、商店街の方々には認めていただいた感はあります。地域のみんなで公園の整備をしてる時、商店街の方々がよく様子を見に来てくれたんですね。実はそれ、偵察だったらしいんです(笑)。そりゃそうです、よくわからない『チイキホウカツなんちゃら』の人たちが突然やってきて、地域の人たちと一緒になんだか公園を掃除しだしちゃったわけですから(笑)。でも、そのうち公園がきれいになって、人が集まりだすと、商店街の人達も身を乗り出してきました。

 

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ありがたいことに『商店街の空き店舗を一つ使うか?』というお話まで頂きました。そしてその空き店舗を利用して作ったのが「あきない山王亭」です。家賃は駅前商店街なのに月2万円(笑)。商店街の方々にも、「みま〜も」の活動の意味を理解していただけたのだと思うと、本当に嬉しいです。

 

〜なるほど、この『あきない山王亭』が第2ステップなのですね。

 そこではどんな活動が行われているのでしょうか?

 

ここでは、『専門家→地域住民』という縦の関係性ではなく、『地域住民が主体となって、地域住民を巻き込んで活動する』という『横の関係性』の講座を開くことにしました。地域の人たち15人〜20人位が集まって、編み物が得意な人は編み物を教え、パソコンが得意な人はパソコンを教え、またみんなで集まって公園でガーデニングをしたり、体操をしたり。そういう、地域住民主体の手作りの活動です。地域包括ケアのキーワードは「社会参加」です。いくつに なっても、自分が必要とされる活動の場が、地域の中に数多くあることが重要だと思います。今「あきない山王亭」で年間420講座(H28)が開催されていますので、地域住民の社会参加に貢献できている部分も大きいと思っています。

 

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 (元気かあさんのミマモリ食堂も、地域の高齢者の方々が主体になって毎週開催されている『講座』の一つ)

 

〜年間420講座!1日1講座以上ですね!

 

そうですね。この、『住民の主体的な活動』があってこそ、『住民同士の横のつながり』僕たちは『気づきのネットワーク』と言っていますが、これが機能してくるんだと思います。


〜専門職同士のつながりが『対応のネットワーク』、住民同士の横のつながりが『気づきのネットワーク』ですね。

そうです。そして、その2つのネットワークが繋がり、地域全体が繋がってきてはじめて『見守りのネットワーク』が出来るのだと思います。

 

 

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〜なるほどです。では、今後の展開はどうなるでしょうか。

 

 実は、今年(2017)の5月から、「おおもり語らいの駅」という拠点も始まりました。これが3ステップ目です。先程の公園は線路の西側にあったのですが、線路の向こう側、東側の地区の人達からも、あきない山王亭のようなところが欲しいと要望が出たことによる取り組みです。みま〜も発足10年目ということで、思い切って対象者を「高齢者」から「子供も含む全世代」に変更、組織として大きく舵をきりました。高齢者と同様にママ世代でも孤立化が目立ち始めています、子どもの貧困も問題です。『気づきのネットワーク』は高齢者だけではなく全世代に必要なものです。

 

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専門家は「専ら門の中にいる人間」という解釈をされがちな存在ですが、門の外へ思い切って飛び出し、地域づくりに参加す ることが重要なのです。SOSを求めている方々の声を拾うことができる「気づきのネットワーク」を構築するためには『専門家』にもその覚悟が必要です。これからの「みま〜も」は全世代を対象に、専門家も地域住民も、地域のみんなが繋がって、笑顔になれる地域社会を目指したいと思っています。(2017年10月インタビュー)

 

 


 澤登さんの圧倒的なエネルギーと実績を聴いているうちに、僕は『若月俊一』と『徳之島』を思い出しました。若月俊一は、長野県で「病院で待っているだけでは健康は作れない」と、住民の中に入って「全村一斉健診」「出張診療」「医療啓蒙演劇」を続けた医師です。結果、自身が創設した佐久総合病院は長野県屈指の大病院に成長し、また長野県は日本一の長寿県にまで躍進しました。澤登さんが「もぐらたたきのようだった」と感じられていた状況から、地域の方々とともに歩まれて真の連携と笑顔を実現された状況は、長野の若月俊一医師の思いと実践に少なからず通じるような気がします。

 また、『徳之島』は日本一の出生率(日本の平均の約2倍)を誇る子宝の島です。その子宝の理由の一つに、『地域の人々の繋がりが強いので、子育てがしやすい』ことがあるそうです。澤登さんが第3ステップの「おおもり語らいの駅」で目指されている姿は、徳之島の『子育て世代を暖かく見守る』地域社会に繋がるような気がします。

 考えてみると、これはある意味地域包括ケアシステム構築へ向けた『あるべき姿』と言っても過言ではないでしょう。地域のネットワークさえあれば、地域で生き生きと生活を継続できる高齢者もたくさんおられるし、子育てだって遥かに楽に、楽しくなるのですから。


 澤登さんが中心となって平成20年に作った「みま〜も」は今、徐々にその先進性が評価され「我が地域でも!」との声が全国から殺到しています。フラッグシップ事業の「高齢者見守りキーホルダー」は全国40の自治体で採用され、『みま〜も』の組織形態自体も全国4拠点に広がっています。もちろん、大森地区の地元の皆さんからは大きな信頼を得ているからこその広がりです。


 あなたの近所に地域包括支援センターはありますか?その支援センターは澤登さんのように『対応のネットワーク』『気づきのネットワーク』『見守りのネットワーク』を構築しようと頑張ってくれているでしょうか?一度、行って聞いてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

地域包括ケアってこういうことだったのか!

 

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財政破綻・医療崩壊・さらに高齢化率日本一。
悪条件に取り囲まれてしまった夕張市。
果たして夕張市民の命はどうなってしまうのか?‥。


破綻後に医師として乗り込んだ筆者は、
それでも夕張市民が笑顔で生活していたことに驚く。
事実、財政破綻後のデータは夕張市民に
健康被害が出ていないことを示していた。

「病院がなくなっても市民は幸せに暮らせる! 」

もしそれが事実なら、一体なぜなのか?

本書は、その要因について、先生(元夕張市立診療所所長)と
生徒2人の講義形式でわかりやすく検証してゆく。
夕張・日本・世界の様々なデータを鳥の目で俯瞰し、
また夕張の患者さんの物語を虫の目で聴取するうちに3人は、
夕張市民が達成した奇蹟と、その秘密を知ることとなる・・。

少子高齢化や財政赤字で先行きが不透明な日本。
本書は、医学的・経済学的な見地から日本の
明るい未来への処方箋を提示する希望の書である。

 

森田洋之 著

 

 

 

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http://www.mnhrl-blog.com/entry/muryou-koukai/2017/11/03

 

 

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