Dr.森田の医療・介護ブログ

地域医療・家庭医療の医師&医療経済ジャーナリスト、Dr.森田が綴る医療・介護のブログです。







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小林よしのり氏の「かかりつけ医(プライマリ・ケア)批判」に対する大いなる違和感。

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こんにちは、森田です。

 

昨日、ゴーマニズム宣言ので有名な「小林よしのりさん」が書かれたこんな記事を読みました。

blogos.com

 

この記事、かいつまんで要約しますと、

 

欧州型の「かかりつけ医」を作って、患者が簡単に専門医にかかれないシステムを導入しようとしてるんじゃないか?

(中略)

貧乏人は「かかりつけ医」で食い止められ、富裕層だけが専門医にかかれる時代が来るかもしれない。(以上、上記記事より引用)

 

こんな感じでした。

小林よしのりさん、とても「専門医」がお好きのようですね。

というか、「かかりつけ医」(プライマリ・ケア)がかなりお嫌いのようです。

 

本質的な議論をするなら、専門医とかかりつけ医は、相互補完的な役割を担っているのですから、どちらが凄いとか偉いとかを軽々しく口にするべきではないと思いますが、なんとなく小林さんの主張からはそんな「かかりつけ医なんて・・」、のニュアンスが垣間見えます。

 

ちなみに僕は一応「プライマリ・ケア指導医」でもありますので、このようなご意見に対しましては「憤懣やるかたない!」というところなのですが、ま、正直なところ日本国民の一般的な認識としてそんなところなのかもしれないので、そこはまあ、良しとしましょう。

 

ただ、記事中の、「事実と少し違うんじゃないかな〜」という表現につきましては一言言わせていただこうと思います。

 

というのも、先週もイギリスの家庭医の先生の講演をお聞きしたのですが、ここ数年イギリスの医療について勉強する機会が非常に多く、とても勉強させていただいているので、その影響もあり「プライマリ・ケアなめんなよ!」の気持ちを少しは言っとかないと、自分の精神衛生上良くない、と言う意味もありまして。(他の国も大体同じと聞いていますが、若干違うのかもしれません。あと今日は「プライマリ・ケア」に集中しまして、医師の労働環境・女医問題については触れませんそれらについては中村先生の記事を御覧ください

http://blog.livedoor.jp/dannapapa/archives/4972883.html 

 

 

 

まず、文中の

 

(欧州型にすると)貧乏人は「かかりつけ医」で食い止められ、富裕層だけが専門医にかかれる時代が来るかもしれない

 

の部分。

 

これはおおよそ違うと思います。欧州の医療は、かかりつけ医でも大病院でも、国によって多少違いますが基本的に無料のところが多いです(英国では病院クリニックでの支払いはなし=無料ですが、薬を貰う場合は薬局で少しお金がかかるとのこと)。医療の質や待ち時間の差こそあれ、「風邪」でも「盲腸の手術」でも「交通事故の大手術」でも無料なんですね。

こちらのブログにイギリスでの手術の体験談が載っています。

  ↓↓↓

ameblo.jp

 

 病院食のカレーがまずいとか、いろいろ書いてありますが・・(^_^;)。記事中の

 

「至れり尽くせり、とはいわないけれど、ちゃんと命は助けてくれる」

 

というところに、その雰囲気がよく表れています。

で、最終的には「褐色細胞腫の手術を受けても、入院料も手術料もその後の検診まで含めて全部無料」とのこと。


窓口負担がないという意味では、どちらかと言うとイギリスの医療は「貧困層にも優しい医療」と言えるでしょう。

 

日本では3割負担とか、高齢者は1割負担とか、いろいろありますが、、最近は経済的格差の拡大とともに、「医療費負担がきつくての受診控え」が問題視されるようになっていますので、そういう意味では日本のほうが「貧困層に厳しい」医療体制なのかもしれませんね。

 

 

 

あと、

 

『患者が簡単に専門医にかかれないシステム』

 

と言う部分。

 

実は、世界各国のどの調査でもほぼ同じなのですが、患者さんから医療機関へ持ち込まれる問題のうち8〜9割は、実はプライマリ・ケアで対応できる問題で、本当に入院医療が必要な問題はほんの数%、大学病院レベルの専門医療が必要な人は0.1%、つまり1000人に1人くらいの割合なのです。

 

というより、そもそも論でいいますと、最初から『専門医にかかりたい』と心から思っている人は実はそんなにいなくて、本当のところは、『医学的にしっかりと診てほしい』とか『私の話をしっかりと聞いてほしい』と思っている人が多いのではないかと個人的には思っています。

 

そういう意味では、欧州を中心に展開されている「家庭医(=かかりつけ医)」の養成教育過程では、専門的な手術や治療の代わりに、「全診療科の幅広い知識」と「患者さんの思いを聞き取るコミュニケーションスキル」(英国では家庭医専門医試験の配点の50%がコミュニケーションスキルに充てられているそうです)をしっかり研修することになっていて、医療の質的にも高いレベルでの診療が行われているとのことでした。

 

事実、イギリスの世論調査では「信用できる職業」として、専門医やニュースキャスター、学校の先生をしのいで「家庭医」が第1位にランクされているとのこと。


そして、その役割は「専門医へかかれないようにする人」=「ゲートキーパー【門番】」ではなく「専門医への道を開ける人」=「ゲートオープナー」であると言われています。

 

確かに、日本はフリーアクセスでいきなり大学病院でも受診できます。欧州では一般的にそれは出来ません。ただ、「医療」という分野は医師と患者で持っている知識・情報があまりにも違いすぎて、「情報を持っていない側が自由に選べる状況」が最善とは言えないことも大いにありえます。

 

僕なんかは、家電についての知識があまりないので、家電量販店に行ってズラッと並んだ洗濯機とか冷蔵庫とか見せられて「自由に選んでいいよ」と言われてもチンプンカンプンです。

 

結局は価格と色とかサイズとかその辺を勘案しながら店員さん(専門家)と相談して決める、ということになります。その製品の質を吟味して自分で自信を持って選んでいるかと言うと、正直なところ全然自分では選べていません。

 

これが医療だと、問題はもっとややこしくなります。価格は統一価格でどの病院も支払い基本一緒。しかも、大学病院に行っても担当の医師が誰かになるかは全くわからない。「自由」にいろいろ選べることが、時と場合によっては意外に「不自由」になってしまうこともあり得ます。(これが高齢者になると、複数の疾患・病院を抱えていることが多いので問題はもっと顕著になります。)

 

ま、別記事で小林さんは、

 

「午前中に皮膚科に行って来た。美人で優しい女医さんだから、わしは安心して通う。わしの長年の肌の懸念を除去してくれ、美を保障してくれるありがたい存在だ。」

http://blogos.com/article/324949/ より引用

 

と言われておられるくらいですので、「命を救う医療」というよりも「美容」に近い感覚で物事をおっしゃられているのかもしれませんが(^_^;)。

 

この辺は、小林さんが考えられている「医療」とはだいぶ違うのかもしれませんね。 

 

とはいえ、では

「現段階で英国のようにしっかりした家庭医が日本全国にいるのか?日本国民は家庭医がいるから安心なのか?」

と言われれば…現状決してそうではありません。

我々は「全診療をまんべんなく診れて」「コミュニケーション能力に優れていて」「患者本位の医療」を提供してくれる家庭医を育てていくこと(ていうか自分!もそうなるべく努力すること)にもっともっと注力しなければいけないと思います。

 

小林よしのりさんの言論をどうこう言っている場合でもないのですね。

自戒を込めて(ノД`)。