Dr.森田の医療・介護お悩み相談室

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県で診療・執筆・講演・研究・web発信などをしている。南日本ヘルスリサーチラボ代表、鹿児島県 参与(地方創生担当)

【医師直伝】胃ろう?…それ以外の4つの選択肢の解説(経鼻経管・中心静脈栄養・普通の点滴…それとも◯◯◯)

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医師から胃ろうを勧められる…

超高齢化社会を迎える日本では、

今後こうしたことも比較的多くなるのではないでしょうか。

 

でも、いきなりそんなこと言われても・・

 

そもそも「胃ろう」って何?

そのほかに選択肢はないの?

 

そんなご意見も多いのではないでしょうか。


今回は、そんな疑問にお答えしようと思います。

 

 

まず、「胃ろう」とはなにか?

 

 

胃ろう

 

「胃ろう」は、口から食べられなくなった時、みぞおちの辺り皮膚に穴を開けて胃袋の中まで管を通し、そこから栄養を送る栄養方法です。

具体的なイメージははこんな感じ。

 

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こちらは実際の患者さんの様子。

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こちらは病院で胃ろうから栄養をとっている患者さんたち。

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では、胃ろうのメリットとデメリットについて解説します。

 

胃ろうのメリット

何と言っても胃ろうの最大のメリットは「経腸栄養」であることです。

「経腸栄養」とは、簡単に言うと「普通の人と同じように、胃や腸を使って栄養を吸収する」ということ。

点滴などの血管に栄養を送る栄養摂取法とは違い、生物としての自然な形に近いのでメリットは非常に大きいです。

というのも、実は点滴などの腸を使わない栄養法を長く利用していると、胃や腸の機能が低下してしまうのです。最近話題の腸内細菌叢(腸内フローラ)も変化してくるでしょう(腸内細菌は、人間の腸内に数百兆個も住んでいて、我々の体調を大きく左右するものとして今大きく注目されています)。そういう意味でも、腸を使う「経腸栄養」はそれ以外の栄養法と比べて大きく優位にたっており、医療業界でも「出来れば経腸栄養に」という方針は多くの医療現場で常識となっています。

 

また、鼻腔栄養のように鼻やノドに管が入ることもなく、点滴のように針が刺さることもないので、ご本人が感じられる違和感は比較的軽く管理も比較的楽です。お風呂にも入れますし、やろうと思えばスポーツだって出来ます。

 

胃ろうのデメリット

これは胃ろうに限らず、口を通さずに栄養を摂る方法全般のデメリットなのですが、

美味しさを感じられない!

口から食べないので当たり前ですけどね。

 

我々は通常、食べ物を「目」で見て認識し、美味しそうかそうでないか判断し、美味しそうなら箸やスプーンで顔に近づけて「鼻」で香りを確認し、やはり美味しそうだとなれば、唾液が分泌され、口の中での咀嚼と胃腸での分解の準備が始まります。その後いよいよ「口」に運んで味わい、美味しい!と感じた上でゴクンと飲み込みます。

たしかに「胃ろう」などの経腸栄養は自然に近い素晴らしい方法なのですが、こうした複雑なプロセスを経ないでいきなり胃袋に食物が入ってくるという意味では実は生物学的にも不完全な栄養法ですし、また「口の中で味を感じない」ということは人間としての満足感・幸福感を大きく損なうのかもしれません。

 さらに言えば、日常的に食べ物が口を通らないということは、それ故に唾液の分泌が低下し、口が乾きやすくなり、バイキンが繁殖しやすくなります。予防のためにはしっかりとした口腔ケア(=歯磨き・舌苔除去・唾液腺マッサージなど)が通常以上に重要となってきます。

 

**

ただ、先述のとおり以上のデメリットは「食べ物が口を通らない」方法全般に言えることで、つまり医療的な栄養方法全般に言えること。逆に言えば、胃ろうのデメリットは、全ての栄養法に共通のことくらいしかなく、他の栄養法から比べると、デメリットがとても少ない優秀な栄養法だということも言えるのだと思います。

 

 

経鼻経管栄養(鼻腔栄養とも言います)

  口から食べられなくなったとき、比較的簡単に、その場ですぐ行えるのが「経鼻経管栄養法」です。

胃ろうのように特別な医療的手術は必要ありません。鼻から管を入れ、ノドを通して食道〜胃袋まで押し込むだけです。

 

具体的なイメージはこんな感じ。

 

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イラスト:著者

 

実際の現場はこんな感じ

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経鼻経管栄養のメリット

 こちらもなんといっても胃ろうと同じく「経腸栄養」であることが最大のメリットです。

また、胃ろうや中心静脈栄養と違い、その導入に病院での大掛かりな手術や処置は必要ありません。僕も在宅訪問診療で挿入することもあります(大体看護師さんがしてくれますけど^_^;)。

あと、これはメリットでもありデメリットでもあるのですが、経鼻経管栄養の管は入れるのも容易ですが抜去も容易で、引っ張ればすぐに抜くことが出来ます(胃ろうの管は引っ張っても簡単には抜けないような構造になっています)。

 

 

経鼻経管栄養のデメリット 

 経鼻経管栄養は、経腸栄養という意味では胃ろうと同じですが、「常に管が鼻・ノドを通っている」という意味で、ご本人が感じるであろう違和感は相当なものでることが予想されます。こちらの看護師さんのツイートにもありますように…。

 

 

この管が24時間、しかも何年も入っているという状況は、結構厳しいものが予想されます。

 

 

 

 

**** 

以上、「経腸栄養」には大きく分けて「胃ろう」と「経鼻経管栄養」があるということになります(細かく言えば「腸ろう」と言うものもあります。胃ではなくその一寸先の腸に穴を開けるもので、導入時の手技は複雑になりますが、原理的には胃ろうとあまり変わりはありません)。

 

 

 

 

普通の点滴

 

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おそらく皆さんも一度くらいは経験があるかもしれません。腕などの血管から水分や栄養をいれる点滴ですね。

ただ、これ勘違いされることが多いのですが、十分な栄養は入りません(水分は入れようと思えば十分に入ります)。
腕などの血管は太さに限界があり、濃い栄養を入れると「静脈炎」が発生して血管がつぶれてしまうことがあるのです。具体的には、500mlの多めの点滴を2時間かけてするとして入る栄養は200kcalくらいが限界です。成人男性が1日に必要なカロリーが2500~2600kcalなので、2時間点滴しても栄養補給という意味ではあまり意味がないかもしれません。アイスクリームが好きなら、コンビニで1カップ(大体200〜300kcal)食べるのとカロリー的には大差ありません。
 

ということで、「口から食べられなくなった高齢者」を想定した場合、普通の点滴と言うのは、栄養摂取法としてはあまりいい選択肢ではないということになります。

 

普通の点滴のメリット

 普通の点滴のメリットは手軽さです。そういう意味では経鼻経管栄養と似ていますね。胃ろうや中心静脈栄養と違い、病院での大掛かりな手術や処置は必要ないので、在宅でも簡単に導入できます。医師の指示があれば訪問看護師さんにお願いすることも出来ます。

 特に、一時的な脱水症状などのときにはとても有効な処置となります(栄養は微妙ですが、水分はしっかり入りますから)。

 

普通の点滴のデメリット

 前述の通り、十分な栄養補給が期待できないという点で、栄養法としては他の栄養法に大きく水をあけられていると言っていいでしょう。また、次の中心静脈栄養と同様、血管からの栄養摂取であり、腸を使う「経腸栄養」ではありませんので、そこもデメリットになってきます。

 

 

 

中心静脈栄養

 

 中心静脈栄養は、普通の点滴のデメリット=「十分な栄養を入れられない」という部分をクリアするために、体の中心部分に近い太い血管に点滴の管を入れて十分な栄養を確保しようというものです。太い血管なら静脈炎になって血管がつぶれることもないんですね。

 

 具体的にはこんな感じ。

こちらの方は首の下の静脈(鎖骨下静脈)ですね。

 

こちらの方は首の横の静脈(内頸静脈)。

 

 

 

 

こちらはCVポート。

首の下の静脈に入った管の根本の器具を皮膚の下に埋め込んで、いつでも針をさせるようにしたものです。

 

 

あと、PICCと言って、腕の静脈から長い管を挿入し、管の先端を太い静脈まで届かせる、という方法もあります。

 

 

中心静脈栄養のメリット 

 中心静脈栄養のメリットは、何と言っても「十分な栄養量が確保できる」ことです。

 糖質・タンパク質・脂質・ビタミン・微量元素など、何でも十分量入ります。

 

中心静脈栄養のデメリット 

 普通の点滴同様、「経腸栄養でない」というところが最大のネックになります。体を維持するのに十分な栄養は入ったとしても、胃や腸などの消化管を使わないことで、長期間の使用では消化管の機能が低下して、体全体としてはバランスを崩してしまうことが少なくないです。

  また、写真でおわかりのとおり、その導入には結構大掛かりな医療的処置が必要で、在宅で簡単に…というわけにはいきません。もちろんリスクもそれなりにあります。

 また、何かに引っかかって抜けてしまったら(患者さんが嫌がって引っ張ってしまうことも多々あり)結構な惨事=出血が待っています(CVポートならその心配はありません)。

  また、人間の血管内は通常無菌状態が維持されていますが、中心静脈栄養の場合血管内の管が血管外の世界(細菌が多い)と通じているので菌が血管内に入り込んでしまい感染症を起こしやすいということもあります。ですので、管を入れる時は、皮膚を入念に消毒して、無菌手袋をして、慎重に操作を行います。

 

**

以上、「普通の点滴」と「中心静脈栄養」は、経腸栄養に対して「経静脈栄養」とも表現されます。

 

まとめ

以上をまとめますとこんな感じになりますでしょうか。

 

 

 

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*筆跡:著者。今回はなんとなく手書き推しで書いてみました。 

 

 

それとも…◯◯◯

 

 以上、いろいろな医療的処置の見てきましたが、こうして医療の事情をいろいろ勉強していくうちに、忘れがちなことがあります。

 

 それは「患者さん本人の思い」です。

 

 多くの患者さんは、「それでも食べたい」と思っています。その気持の耳を傾けることから始めないと、ついつい選択はご本人の思いから離れていってしまいます。医師などの医療従事者は、昨今の医療訴訟の増加の背景もあり、どうしても「安全・安心」を求める傾向にあります。

 となると、どうしても「誤嚥性肺炎を防ぎたい」→「禁食」→「医療的な栄養管理」となっていきがちです。

 

 医師から「絶食」を指示されて「胃ろう」で栄養を受けていた人も、しっかり検査して食べる支援をしたら8割の人が少量〜全量の食事を口から摂れるようになった、と言う学会報告もあります。

 

 

 

 

僕の患者さんには、「胃ろうを引っこ抜いてくれ」と訴えられた患者さんもいました。

 


 

患者さんの思いはそれぞれです。高齢者医療の多くの場面で、実は正解があるようでありません。医療的処置が必要なのか、栄養補給が必要なのか、医療側から見た正解にもまして、実は患者さんの思いが優先されるべきなのかもしれません。

 

 「肺炎になってもいいから、最期まで口から食べたい」と言うご本人の思いがあったっていいではないですか。事実、そうした患者さんのを多く見てきましたが、口から食べてすぐに肺炎になるか、というと意外とそうでもありません。ずっとニコニコしながら食べている方も大勢おられます。

 

 人生いろいろです。

高齢になっていろいろと問題がでてきたとき何がその人の正解なのか、それもいろいろ。

医療に任せてしまえば医師から医療的な正解が与えられるでしょう。でもそれが本当に正解なのか、それはその人の人生やその人の思い次第なのではないでしょうか。

本人・家族・医療介護のみんなで一緒に悩む。そんなことから始められたら、よりよい人生の最終章を送れるのかもしれませんね。

 

 

 

 

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f:id:mnhrl-blog:20180514101431p:plain【医師直伝】胃ろうをすすめられたら 〜本人・家族が知っておくべきべき3つのこと〜

 

 

 

 

 

 

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