Dr.森田の医療・介護お悩み相談室

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県で診療・執筆・講演・研究・web発信などをしている。南日本ヘルスリサーチラボ代表、鹿児島県 参与(地方創生担当)

【医師直伝】胃ろうをすすめられたら 〜本人・家族が知っておくべきべき3つのこと〜

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 お悩み相談

90歳で認知症の父が、肺炎で入院しています。先日、病院の主治医からこう言われました。

 

・もう何回も肺炎を繰り返している。

・飲み込む力が弱ってきたために、食べ物が食道・胃でなく、肺の方に入っていしまっている。

・このままだと口から食べ続けるのは危険かもしれない。

・いずれ『胃ろう』、と言う可能性も十分にあるので、ご家族で話し合っておいてください」

 

話し合っておいてと言われても、家族もどうすればいいのかわかりません。とても悩んでいます。

 

 

 

登場人物

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森田先生:とりあえず何でも診る総合診療(プライマリ・ケア)の医師。40代。

 

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Yさん:2人の子を持つ30代専業主婦。元病院看護師。

 

 

 

森田「今回は胃ろうのご相談ですね。こんなとき、本当に悩ましいですよね。」

 

Yさん「わかるわ〜。『ご家族で決めてください』って言われてもね…。『医療については素人なんだから分からない!』と思うのも当然よね。」

 

森田「そうですよね〜。でも、実際に病院の現場では、医師からこう言われることが多い…。」

 

Yさん「なんで医師は決断をご家族に委ねるのかしら。」

 

森田「そうですね。では、こうした場合に医師側は何を考えているのか、患者さん側はどう考えればいいのか。今回は、医師としての私なりの考え方を述べたいと思います。」

 

Yさん「ふむふむ、面白そう。お願いします。」

 

 

終末期医療の世界には正解がない?

 

 

 森田「そもそも、みなさんが考えておられるような、手術したり、点滴したりという、一般的な医療の世界では、いわゆる『標準的(理想的)な術式、投薬法』など、いわゆるガイドライン的な『正解』がありますよね。」

 

Yさん「そうね。この病気には手術が一番、とかこの病気には点滴でこの薬を使う!とか、看護学校の教科書で一生懸命勉強したわよ。」

 

森田「そうです。しかし、終末期医療の世界には『これが正解』と言える一定の道筋があるようで、実はあまりないんです。」

Yさん「どういうこと?」

 

森田「たとえば、超高齢で『老衰』としか言えないような状態の時、また、認知症の末期でもう寝たきり、というような時。病院の医師が得意とする『治療』で解決できる問題ではなくなっている、もう『延命処置』しかすることがない。…もうすでに『治療』に反応しない段階になりつつある患者さん、彼らの人生の終わりにどう向き合っていくか…、多くの管につながれて意識もなく『延命』されることが果たしてご本人の人生の終末としてふさわしいものなのか…そんなデリケートな部分は医学的な『正解』とはまた別の話になってきますよね。」

 

Yさん「うんうん、わかる。」

 

森田「実はこうした部分は、治療の専門家である多くの医師にとって得意な分野ではないのかもしれません。…もしかしたら医師も迷いの中にあるのかも?…その辺のことがよく現れている研究データがあります。」

 

Yさん「 へ〜、どんな?」

 

森田「これは、東京大学の会田薫子教授の研究なのですが、『認知症が進行して食べられなくなった患者さん(現在は点滴で栄養補給中だが、点滴だけでは十分な栄養は摂れない)にどの治療法を勧めますか?』という問い。これに対して、789人の医師から回答を得ています。その結果がこちら。」

 

 

 

① 認知症末期の栄養法は?

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出典:

日本老年医学会シンポジウム 2011 食べられなくなったらどうしますか?
認知症のターミナルケアを考える〜医師対象調査報告〜

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/josei/pdf/doctor_chousa.pdf 

 

 

Yさん「 へ〜、『点滴』が一番多いのね。『胃ろう』は意外に少なくて21%、『何もしない』っていう先生も10%いるのね。」

 

森田「そうですね。ただ、一番多い『点滴』というご意見にしても、点滴だけできちんと栄養が取れるものではないわけですから、『これがベスト!』と言うよりはむしろ『何もしないよりはいまの点滴を続けていたほうがいいかな』くらいのご意見だと思います。」

 

Yさん「そうね〜。そう考えると、医師の意見も結構バラバラなのかもね。」

 

森田「ちなみに、ここで回答されている医師は全員『日本老年医学会』の会員の先生ですので、終末期医療に対しては強い思いがお有りの先生方だと思います。その先生がたの中でもこれだけ意見が分かれるということですね。…で、医師に対する質問はもう一つあります。『あなた自身が患者さんだったらどうしますか?』というもの。」

 

Yさん「へ〜、面白そう!」

 

森田「その結果がこちら」

 

 

 

 

② 自分が患者だったら?

 

 

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 出典:同上

 

 

Yさん「 わあ!『何もしない』が一気に増えたわね!あと、『死んでもいいから口から食べたい』が19%!さっきと全然違うじゃない!」

 

森田「そうですね。回答がだいぶ変わりましたね。正解のない終末期医療の世界で、医師もとまどっている、ということのあらわれかもしれませんね。」

 

Yさん「なるほど〜〜。」

 

森田「あと、別のデータですが、内閣府が出した『医療の見える化』のデータと言うものがあります。これによると、『胃ろうの件数は、都道府県別で最大約7倍』と、かなり地域差が強くあることが分かってきています。」

 

 

 都道府県別、入院患者に対する胃ろうからの栄養注入件数(高齢化率など平準化済)

 

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平成29年4月28日 内閣府発表 

胃瘻・療養病床・在宅医療・人工透析…医療提供状況の地域差(都道府県別、二次医療圏別、市区町村別)
~評価・分析WG(4月) 藤森委員提出資料より~
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/committee/290428/sankou1.pdf

 
Yさん「へ〜〜すごい!沖縄と埼玉じゃ、7倍近い差があるのね!これだけ差があるということは、本当に先生が言うように、『正解がない世界でみんな戸惑っている』ということなのかもね。」

 

 


胃ろうを勧める・勧めない医療側の事情

 

森田「では次。なかなか語られない、胃ろうに対する『医療職の思い』について。」

 

Yさん「そっちの方なら、私もちょっとわかるかも。」

 

森田「実は、医療職が『胃ろう』の話をする時、その背景には純粋な医学的判断と同時に、『医療・介護サイドの都合』がある場合もあります。」

 

Yさん「どういうこと?」

 

森田「『胃ろう』が作られている患者さんの介護は、そうでない患者さんの介護に比して、労力がかからない場合が多く、『胃ろう』があることが介護施設入所の条件になることすらあるんですよ。」

 

Yさん「たしかに!この辺はあまり語られないことかもしれないけど、それはたしかにあるわね。介護する側としてもそう。口から食べる患者さんは、スプーンでひと口ずつ介助が必要だったりする。でも、胃ろうがあれば、栄養の入った液体をベッドサイドにぶら下げて管つなぐだけでいいもんね。そう、現場はその方が楽なんですよ!」

 

森田「そう、医師としても胃ろうがあると安心なんです。口から食べる人は『あのひと肺炎になったりしないかな?』と、心配が絶えない。胃ろうがあって、管から栄養が入ってれば、そうした心配をあまりしなくて済みますからね。」

 

Yさん「そうなのよね〜。見ている方としては、胃ろうの方が安心。」

 

森田「そうなんですよね。でも、実はこんなデータもあります。『重度認知症に胃ろうをしても、誤嚥性肺炎は減らない』と…。」

 

“To PEG or not to PEG, A review of evidence for placing feeding tubes in advanced dementia and decision-making process.”
Geriatrics 2006;61:30-35.

 

Yさん「え?そうなの?誤嚥性肺炎が減るから胃ろうにするんだと思ってた。」

 

森田「ま、研究というものは、元データが海外のものだったり、単一の病院で行われていたものだったり、単純に自分の環境と比較できるものでない可能性もありますから…。でも、こうしたデータもあるということは知っておいてもいいと思います。」

 

Yさん「う〜〜ん、もうだんだんわかんなくなってきた!…で、結局のところ最初のお悩み相談の方はどうすればいいのよ!」

 

森田「そうですね。どうすればいいか…。この問いは、医師でさえ正解を模索している本当に難しい問題です。たとえば、終末期の選択にはいろいろな選択肢があります。具体的には…

 

◯胃ろう

◯経鼻経管栄養(鼻から胃まで管を通す)

◯普通の点滴

◯中心静脈栄養(特別な太い点滴)

◯何もしない

 もしくは、

死んでもいいから口から食べるなど

 

でも、おそらくどの選択肢にもいい面・悪い面が混在していて、これで100点満点!という選択肢はない、と思ったほうがいいでしょう。」

 

Yさん「ま、わかるけどさ。それじゃお悩み相談の答えになんないじゃない。」

 

森田「確かに…。まぁ『正解』を示すことはできませんが、考え方の『道筋』は示せるかもしれません。」

 

Yさん「そうそう、それ。それを早くいいなさいよ。」

 

森田「(^_^;)   はいはい。実は、ここまでの話で、その思いや迷いを語られていなかった方がいます。誰だと思います?」

 

Yさん「…え?」

 

森田「それは、患者さんご本人です。」

 

 

 

ご本人の本当の思いは?

 

Yさん「あ!そうね!」

 

森田「そう、こうして医療側の考え方や、介護側の都合などの話をしていると、ついつい忘れてしまうのが、そこなんです。医療や介護などの多職種会議などでも、専門的な話になりすぎたり、各職種の『都合』の話にばかりなってしまって、『ご本人がその問題についてどう思っているのか』をついつい置いて行ってしまいがちなんです。…本当はそこからじゃないと何も始まらないんですけどね。」

 

Yさん「確かにそうよね。ご本人の思いが大前提で話は進められるべき…。でもね…。認知症が進んできてて、ご本人が思いを話せない場合だって多いわけですよ。」

 

森田「それはそうですね。でも、こんなデータもあります。」

 

 

『胃ろう・絶食の人も実は8割食べられた!』

 

 

Yさん「へ〜〜!絶食・胃ろうの人も、本当は食べられる人も多いのね!」

  

森田「そうなんです。『食べられない』と医師からレッテルを貼られてた患者さんも、実は8割は食べられた。そういう意味では、もしかしたら『思いを伝えられない』と、思っている患者さんたちも、我々が勝手にレッテルを貼っているだけかも知れない…。」

 

Yさん「う〜ん、レッテルを貼ってるだけ…ね〜。」

 

森田「例えば、重度の認知症の方でも、もしかしたら時間帯によっては頭がはっきりすることだってあるかも。施設ではボーッとしてるけど、外泊でご自宅に帰ったらシャッキリすることはあるかも。そういう時にさりげなく本心を聞いてみたりしたらいいのではないでしょうか。」

 

Yさん「まあ確かにそんな患者さんもいるわね。…でもさ、認知症がすごく進めば、本当に全く思いが聞けない状況にだってなるわけよ。」

 

森田「そうですよね。でもね、たとえ『今』はそうだとしても、お爺ちゃん・お婆ちゃんは、『かつて』社会で活躍された尊敬すべき先輩たちです。何も思いがなかったわけはないはずです。かつて元気だったとき、『延命治療』や『胃ろう』についてどう思っておられたのか……、彼らの輝ける時代をともに過ごされたご家族ならば、そこに思いを馳せることも出来るかもしれない。」

 

Yさん「そうね〜。確かに、お爺ちゃん・お婆ちゃんの輝いてた時代のことを知ってるのは、ご家族だけだもんね。」

 

森田「そうですね、私の患者さんで、本当に真摯に耳を傾ける努力をしたところ『ハラの胃ろうのパイプをひっこぬいてください』と筆談で訴えられた方までおられました。…『え?あの患者さん、意識はっきりしてるんだ!』とびっくりしたスタッフもいましたよ。」

 

 

 

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森田「つまり、まずご本人の思いがあって、その後、それをどうやって叶えられるか、そのために医療・介護は何ができるのか、何をしてもらえるのか。そんな風にみんなで悩んでくれたらいいのかなー、と思います。特に、いろいろな病院だったり、医療・介護のいろいろな職種の人たちの話を聞けば聞くほど、どんどん専門職の理論に引きこまれていって、いつの間にかいちばん大事な『ご本人の思い』が遠く彼方に行ってしまうことがよくあります。そんな時、もう一度、お父さん・お母さんの若い頃を思い出しながら、ご家族みんなで『ご本人の思い』を語り合ってみるといいと思いますよ。…そんな時には、ちょうどこの漫画が参考になるかもしれないですね。」

 

 

  

 

Yさん「ま、確かにね〜。じゃ、今までの話をまとめると、

 

◯終末期医療の世界に正解はない

 

◯胃ろうを勧める・勧めない医療側の事情もある


◯ご本人の本当の思いは?そのために何が必要?…家族も医療・介護関係者もみんなで悩みましょう!

 

そんなところですかね。」


森田「そうですね!『人間の死亡率は100%』、誰にも必ず人生の終わりが訪れます。ご高齢の方だけでなく、ご家族も、医療・介護の専門職も、みんなで悩みながら考えていきたい問題ですね。 」

 

 

 

 

 

 

未来に残すべき
『価値あるアイデア』を。

 

 

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財政破綻により病院がなくなってしまった夕張市、
しかも高齢化率は市として日本一。
果たして夕張市民の命はどうなってしまうのか?‥。
しかし財政破綻後のデータは、夕張市民に健康被害が 出ていないことを示していた。

事実、夕張市民は笑顔で生活していた。
「病院がなくなっても市民は幸せに暮らせる! 」
それが事実なら、それはなぜなのか?

本書は、その要因について、先生(元夕張市立診療所所長)と
生徒2人の講義形式でわかりやすく検証してゆく。

夕張・日本・世界の様々なデータを鳥の目で俯瞰し、
また夕張の患者さんの物語を虫の目で聴取するうちに3人は、
夕張市民が達成した奇蹟と、その秘密を知ることとなる・・。

少子高齢化や財政赤字で先行きが不透明な日本。
本書は、医学的・経済学的な見地から
医療・介護・地域社会の問題を鮮やかに描き出し、
日本の明るい未来への処方箋を提示する希望の書である。

 

森田洋之 著

 

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