Dr.森田の医療・介護お悩み相談室

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県で診療・執筆・講演・研究・web発信などをしている。南日本ヘルスリサーチラボ代表、鹿児島県 参与(地方創生担当)

10年後に消える医療者・消えない医療者

 

f:id:mnhrl-blog:20170515153652p:plain

 

 

「10年後消える職業」という調査結果がある。

オックスフォード大学のこの調査によれば、10年後には「バーテンダー」という仕事は77%の確率でコンピューターもしくはロボットに取って代わられているそうだ。たしかに、最近のコンピュータ・ロボット技術の発達は目覚しい。グーグル自動運転が本当に社会に浸透すれば、タクシー運転手やトラック運転手は職を失うだろうことは容易に予測がつく。スーパーのレジ、ホテルのフロントなども最近は自動化されており、これらの職種も10年後にどうなっているかわからない・・・・。では、医療業界はその時代にどうなっているのだろうか。

 

 実は、オックスフォード大学の調査で挙げられている「10年後消える職業」の中に、医療業界の職種はあまり入っていない。かろうじて「義歯制作技術者」が入っているのは、おそらく3Dプリンターの影響だろう。では、医療業界には、コンピューター・ロボット時代の影響はないのであろうか。我々は、彼らの驚異から安泰でいられるのだろうか。いや、そんなことはないだろう。すでにIBMの人工知能型コンピューターは、患者個々人の症状や遺伝子、薬歴などを総合的に判断し、患者に合った治療計画を作ることに成功しているのだ。

 

 看護の世界でもこの傾向は著しい。介護ロボット「HAL」は、患者さんのADLを向上させるとともに、病棟や施設・在宅における看護業務を大幅に縮減させる可能性がある。血圧・体温・SpO2などのバイタルサインの測定・管理は、御存知の通りすでにもう自動化の波が押し寄せている。これらの仕事は、5年後にはもうないのかもしれないのだ。看護師の仕事は、10年後にはどうなっているのか・・・。

 

 では、10年後に生き残っている職業の特徴は?オックスフォード大学のオズボーン教授は言う「単純作業・ルーチンワークの部類の仕事はもう、コンピューター・ロボットがすべて出来る時代。反面、ロボットやコンピューターは芸術などのクリエイティブな作業には向いていません。となれば、人間は機械にできる仕事は機械に任せて、より高次元でクリエイティブなことに集中できるようになるわけです。人間がそうして新しいスキルや知性を磨くようになれば、これまで以上に輝かしい『クリエイティブ・エコノミー』の時代を切り開いていけるのです。」

 

 さて、クリエイティブな仕事といえば、イラストレーターや漫画家、小説家、美術家ななどが頭に浮かぶ。・・しかし、果たして医療業界にクリエイティブな仕事などあるのだろうか。首をかしげてしまうのは、あなただけではないはずだ。

 でも、私は医療業界で、クリエイティブな仕事をしている人たちを多く知っている。今回はそんな仕事をされているお2人をご紹介したい。

 

 

 

 一人目は、滋賀県の中山間地、永源寺地区で診療所をされている花戸貴司医師。彼は、患者さんとのコミュニケーションによってクリエイティブな仕事をされている。永源寺地区に医師はほぼ彼一人なのだが(かえってそれが功を奏しているのか)、地区住民地区の在宅看取り率は、なんと50%とのこと。全国アンケートを見れば、『最期まで家に居たい』と願う方が圧倒的に多いのに、日本では病院死が未だに8割。自宅で最期を迎えたい、という高齢者の願いを叶えるのは大変なことなのだ。果たして、花戸医師はなぜこんな凄い数字を出せるのか。

 彼は言う。「ここに来た当初は、田舎であっても白衣を着て、見た目も中身も立派な、地域の人に尊敬される医師でなければならない、と思っていました。でも、診療所で患者さんが話される話題は、畑のこと、家庭のこと、趣味のこと、病気以外のことばかり。次第に、医師としてよりも、永源寺に住むひとりとして出来ることをやろう、と思うようになりました。そう考えた日から私は白衣を着なくなりました。尊敬されなければいけない、格好つけなければいけない、そんな思いから開放されたようで、身も心も楽になりました。病気はもちろんですが、その人の生活を見てこそ分かることが多い。診察室で『畑に行く』と聞いただけでは、どこで何を作り、畑の大きさはどれくらいで、誰と作業をしているのかはわからない。生活の動線を見て、そこで暮らす人々の関係性を見て、その中でその人らしい生活を送るために自分に何ができるかを考える。そうすることで患者さんが元気になったり、いつまでも地域で暮らしていくことができたりします。そういうことができるようになったのは、白衣を脱いでからですね。大病院では出来ないことも、地域でならできることがある、そう信じて16年。ここで頑張っています(笑)」

 

 地域で、医者が白衣を脱いで、地域住民と一緒に汗をかく。その中で、その人にあった医療を考え、その結果、最期まで地域で暮らせる、幸せな高齢者が増える・・・。これはコンピューター・ロボットには出来ない、これ以上ないクリエイティブな仕事といっていいのではないだろうか。

 

 

花戸先生の著者はこちら

 ↓ ↓ ↓

ご飯が食べられなくなったらどうしますか?

ご飯が食べられなくなったらどうしますか?

 

 

 

 

 

 更にもう一人、こちらは、神奈川県の郊外で介護施設を経営する加藤忠相氏。彼は、「きつい、辛い」と言われ続ける介護業界で、「信頼関係」をキーワードにクリエイティブな仕事をされている。現場の苛酷さから、定職率が低く離職率が高いといわれるこの業界で、彼の施設では殆どの職員が辞めない、というのだから驚きだ。

 

 彼は言う。

「介護の仕事が辛い、というのは本当はおかしいんです。介護の仕事をしようと言う人達は、本当は心の優しい人が多い。なのに、現場では、高齢者を支配・管理することばかりさせてしまう。徘徊するから鍵をかける。弄便するからツナギを着せる、夜中に暴れるから睡眠薬を一服盛る・・・。こんなことさせられたら心のやさしい介護職ほど真っ先に辞めていきます。ウチでは、介護の最終ゴールは『信頼関係の構築』とスタッフに言っています。そのためには何をしてもいいと。施設に鍵をかける、と言うのは、爺ちゃん婆ちゃんを信用していないということ。だからウチでは鍵はかけない。外から鍵をかけられた、監獄のような場所にいて気持ちのいい人がいますか?そんなところで信頼関係がうまれますか?徘徊するなら、とことん付き合う。信頼関係が出来れば、ここが居場所として落ち着ける場所になったら、徘徊という周辺症状は消えていきます。居たくない場所だから徘徊するんです。信頼関係の構築に必要だと思うなら、職員はその場で判断して、施設でお酒を飲んだっていい。爺ちゃんと温泉に行ったっていい。一時的には労力がかかるかもしれないけど、トータルで見れば、鍵をかけてツナギを着せて縛り付ける介護よりも、労力はかからないのです。もう16年この方法でやってますが、ちゃんと経営できてますし、だからこそ職員も殆ど辞めません。」

 

 高齢者施設で鍵をかけない・・そのかわりに信頼関係を築く・・。彼の施設で、祭りをやると地域の方々が400人以上集まるそうだ。果たして、地域の方々を400人集められる病院が全国にいくつあるだろう。信頼関係を構築する、高齢者も安心できて、職員も満足。地域住民からも信頼される・・・。これはまさに、コンピューター・ロボットには出来ない、クリエイティブな仕事といっていいだろう。

 

加藤忠相氏の著書はこちら

 ↓ ↓ ↓

f:id:mnhrl-blog:20170215084705j:plain

「あおいけあ流 介護の世界」

爺ちゃん婆ちゃんが輝いてる!
職員がほとんど辞めない!
施設で職員の結婚式も!
最期は家族のようにお看取りまで…

…辛い・暗いの介護のイメージをくつがえす
「あおいけあ」流介護の世界。
加藤忠相を講師に迎えた講義形式で展開
される講義の受講生はおなじみのYさんとN君。

マンガ・コラム・スタッフへのインタビューなど
盛りだくさんの内容でお送りする、
まさにこれが目からウロコの次世代介護スタイル。

超高齢化社会も、これがあれば怖くない!

森田洋之・加藤忠相 著 

f:id:mnhrl-blog:20170310155238p:plain

 

 

 

 実はこの二人に共通することがある。それは、かえってアナログ的な昔風の医療・介護だ、ということである。『未来型医療』というと、ITテクノロジーだったり、高度な機械を使った医療・介護・・などを連想しがちだが、実は『10年後に残っている仕事』は『コンピュータ・ロボットに強い・詳しい仕事』でも『専門スキルを磨いて生き残る仕事』でもなく、『コンピュータ・ロボットでは出来ない(かえって人間的な)仕事』なのかもしれない。10年後は、掃除も、お茶出しも、オムツ替えも、排便誘導も、点滴・バイタルサインの管理も、更には医師の診断・治療までコンピューター・ロボットがやっている時代かも知れないのだ。その時代に本当に生き残れるのは、かえって人間的な、コミュニケーションや信頼関係のスキルを持った人なのではないだろうか。

 

 もちろん、専門職のスキルを磨くことは大事である。しかし、それで終わっていては、10年後に生き残れないかもしれない。そのスキルは10年後、ロボットがやっているのかもしれない。先述の二人、彼らのような本当の専門職は、専門スキルを磨きながらも、その上で専門職の殻を破り、白衣という鎧を脱いで、地域に溶け込んでゆく。地域住民の生活の中に混じって、コミュニケーションを重ね、信頼関係を築き、その上で、専門職のスキルを発揮するのである。だからこそ、大きな仕事、ロボットには出来ない仕事ができるのではないだろうか。

 

 考えてみれば『バーテンダー』も同じかもしれない。77%消えるというが、逆に言えば23%は残るということだ。ただただお酒を作るだけでなく、地元の常連客の愚痴を聞いたり、話し相手になることで、信頼関係を築き、その上で美味しいお酒を提供してみんなで笑い合える、幸せな時間を作る事ができる。そんな仕事ができるバーテンダーなら10年後も生き残っているかもしれない。

 

 10年後、今と同じ仕事があるとは思わないほうがいいのなら・・・。さあ、あなたは、その時どんな仕事をしているでしょう・・・。ロボットに出来ない仕事は何なのか?その時あなたは、一体何ができるのか?しっかりと考えて、準備していきたいですね。

 

 

(初出:看護部長通信 2017年2・3月号『もうそこにある未来型医療 第5回』supervised by メディカルアートディレクター佐藤和弘) 

 

 

 

 

AIには出来ない介護の世界

 

f:id:mnhrl-blog:20170215084705j:plain

 

爺ちゃん婆ちゃんが輝いてる!
職員がほとんど辞めない!
施設で職員の結婚式も!
最期は家族のようにお看取りまで…

…辛い・暗いの介護のイメージをくつがえす
「あおいけあ」流介護の世界。
加藤忠相を講師に迎えた講義形式で展開
される講義の受講生はおなじみのYさんとN君。

マンガ・コラム・スタッフへのインタビューなど
盛りだくさんの内容でお送りする、
まさにこれが目からウロコの次世代介護スタイル。

超高齢化社会も、これがあれば怖くない!

 

森田洋之・加藤忠相 著

 

f:id:mnhrl-blog:20170310155238p:plain