Dr.森田の医療・介護お悩み相談室

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県でフリーランス医師。懲りずに執筆・講演・研究・web発信など儲からないことばかりやっている。

【依存することで自立する?】 地域包括ケア・マンガ解説の【後編】

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登場人物

 

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森田先生:とりあえず何でも診る総合診療(プライマリ・ケア)の医師。40代。

 

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Yさん:2人の子を持つ30代専業主婦。元病院看護師。

 

 

 

前回

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(続きから)

 

 

森田「そう、実はここに、『本人の選択』を大切にする大事なポイントが隠れているんです。」

 

Yさん「え?どういうこと?」

 

 

森田「ではここで、東京大学の准教授で、なんとご自身も手足が不自由で車椅子生活をされている、熊谷晋一郎先生のお話を聞いてみましょう。」

 

 

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熊谷晋一郎(くまがや・しんいちろう) 1977年山口県生まれ。生後間もなく脳性麻痺により手足が不自由となる。小学校から高校まで普通学校へ通い、東京大学に進学。医学部卒業後、小児科医として10年間病院に勤務。現在は障害と社会の関係について研究するとともに、月2回ほど診療現場に出ている。

 

『(大学進学にあたり東京で一人暮らしを考えた時、)当然のことながら親は大反対し、母がついてくると言いました。(中略)でも、実際に一人暮らしを始めて私が感じたのは、「社会は案外やさしい場所なんだ」ということでした。
 大学の近くに下宿していたのですが、部屋に戻ると必ず友達が2〜3人いて、「お帰り」と迎えてくれました。いつの間にか合い鍵が8個も作られていて、みんなが代わる代わるやってきては好き勝手にご飯を作って食べていく。その代わり、私をお風呂に入れてくれたり、失禁した時は介助してくれたりしました。(中略)それまで私が依存できる先は親だけでした。だから、親を失えば生きていけないのでは、という不安がぬぐえなかった。でも、一人暮らしをしたことで、友達や社会など、依存できる先を増やしていけば、自分は生きていける、自立できるんだということがわかったのです。
 「自立」とは、依存しなくなることだと思われがちです。でも、そうではありません。「依存先を増やしていくこと」こそが、自立なのです。これは障害の有無にかかわらず、すべての人に通じる普遍的なことだと、私は思います。』

以上、http://www.univcoop.or.jp/parents/kyosai/parents_guide01.html から引用。

 

 

 

 

 

Yさん「ちょっと!熊谷先生、すごい人ね!脳性麻痺で手足が不自由で車椅子生活なのに、東大入ってお医者さんになって、しかも一人暮らしまで、、」

 

森田「そう!すごいですよね。そして熊谷先生はその体験の上で、『依存先を増やすことこそが自立』と言われています。」

 

Yさん「うーん、逆転の発想のように聞こえるけど、熊谷先生の話を聞いたらなんとなく分かるような気もする。」

 

森田「そうそう、実は2つ目の漫画でも、ご本人・ご家族は上手に依存先を見つけているんです。」

 

Yさん「え?そうだっけ?」

 

森田「ほら、この人たち。」

 

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Yさん「あ、本当だ!そう言われると、上手に依存してるわね。」

 

森田「ね?お婆ちゃんと娘さんは、住み慣れた地域の中で、こんなにたくさん、上手に依存先を見つけているんですよ。」

 

Yさん「なるほど『上手に依存先を増やしていく』か…。熊谷先生は『障害』の方だけど、高齢者も根っこは同じなのかもね。あ、もしかしたら、子育てだって同じかも!」 

 

森田「そうそう。PTA活動なんかもそうですね。『めんどくさい』なんて言いながら、でもやってると仲間が増えてきて、子供を預けられる家が増えてきたり。それも依存先を増やしたということかもしれないですよね。」

Yさん「わかる!子育て中のママは孤独になりがちなのよね。特に実家が近くにない場合、本当に大変。それって、依存先が少ないからなのかもね。」

 

森田「そうですね。たしかに『家族が頼り!』という思いは誰にもあると思います。でも、そこだけに固執してしまうからこそ、熊谷先生も『親がいなくなったら自分は生きていけない』と思っていたのかも。でもその後、家族だけではない、社会に甘えていいんだ、『依存していいんだ』と気付かれた。2つ目の漫画もそう。上手に依存先を見つけている。」

 

Yさん「なるほどね。」

 

森田「難しい言葉で言うと、『自助・互助・共助・公助』とか、『介護の社会化』とかいうことなりますが…』

 

Yさん「その辺の難しいところはパス!」

 

森田「あと『きずな貯金』てのもありますが……。ま、つまり、上手に依存先を見つけるのは大事、って話です。でもそれって大変。隣近所の付き合いからはじめて、近所の介護・医療機関の情報まで、クチコミ含めて収集しなきゃいけない。なので、これまでのように、なんとなく家族だけで解決してしまいがち。家族だけで抱え込んだままだと、結局『たった一人で孤独に介護する』とか、それも限界になって、本人の選択を考慮せず遠くの『一見なんでも揃ったきれいな病院・施設』に預けてしまう……1つ目の漫画みたいに…。」

 

Yさん「いや、施設に預けてるんだからさ、それだって同じで、上手に依存してるんじゃない?」

 

森田「そういう風にも見えますけどね。でも、そもそも前提に『本人の選択』もないわけで…それって、『上手に地域に依存出来なかったゆえの丸投げ』なんじゃないかな、と…。」

 

Yさん「丸投げか〜、先生、またズバリ言うわね。」

 

森田「いや、最近、地域で生活してると、お馴染みのお爺ちゃんお婆ちゃん達がフッと消えちゃうんですよ。『そう言えば、あそこの爺ちゃん最近見ないね。』なんて言ってると、実はご家族の意向で先月遠くの施設に入ったんだ、みたいな。なんだか悲しいんですよね。『本人はどう思ってたのかなー』とか、『もっとこの地域で上手に依存してほしかったのになー』とか、思うんですよね。」

 

Yさん「なるほどねー。ま、全てがそんなにうまくいくとは思わないけど、そういう方向性もある、ということは分かったわ。」

 

森田「そうですね。『本人の選択』を重視する、『それを受け止めるご家族の覚悟』がある、そして、その選択を実現するために『上手に依存先を増やす』。そう考えると、実は場所ってどこでもいいんですよ。例えばお婆ちゃんが『あの特養には仲良しの◯◯さんがいるから入りたい』と言うなら、それは『本人の選択』として尊重されるべきです。◯◯さんという依存先だってあるわけだし。」

 

Yさん「あ、一番最初の、厚労省のイラストで『自宅』と『高齢者住宅』が並列に書かれてるけど何で?…ってやつね。」

 

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 厚労省のHP「地域包括ケアシステム」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/

 

森田「そうそう。自宅でも、特養でも、サービス付き高齢者住宅でも、本人が活き活きと輝ける場所ならどこでもいい、と僕は思います。だって2つ目の漫画の「小規模多機能」でやってること、病院・施設でもやろうと思えば出来るんですよ。」

 

Yさん「え?そうなの?」

 

森田「そうです。特養だってショートステイは出来ますしね。もし『本人の選択』のなかに自施設で出来ないことがあったら、他の所と連携すればいいだけですし。」

 

Yさん「まあ、そうね。どこでもいい、って言ったらやっぱり自宅がいい、って言う人は多いと思うけどね〜。」

 

森田「そうですね。つまり、病院が悪いとか施設が悪いとか、〇〇が悪い、で終わらせる話ではなく、そもそも皆どうやって老いていきたいの?どんな生活がしたいの?そのためにはどんな地域社会が必要なの?ということを、イチから考え直そうよ、という話。」

 

Yさん「そう考えると、地域包括ケアって、医療とか介護とかだけでなく、社会全体の意識の問題になってくるわね。」

 

森田「そのとおりです。『病院』を減らしたあとは『小規模多機能』などが地域包括ケアシステムの切り札!みたいに言われることもあります。地域包括ケアってそういう『システム整備』の話、と思われている方も多いかもしれません。たしかにそれもそうなんですが、それはイラストで言うところのまさに『枝葉』のお話。『地域包括ケア』の一番の基礎は、『本人』が自ら『選択』をし、それに家族も含めて『責任』を持つ覚悟、さらに『日常生活を送るのに困難がでてきた人はどこかに収容して排除する社会』ではなく、そんな『依存』を優しく受け入れてみんなで生き生きと生活することが出来る社会全体の意識、ここなんです。ここががないところに、いくら小規模多機能を増やしても、『高齢者の収容先が病院・施設から小規模多機能に移っただけ』となりかねません。」

 

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厚労省HPより http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000126435.pdf

 

 

 

Yさん「お〜〜!なんだか話がまとまってきたわね!」

 

森田「でしょ?」

 

Yさん「じゃ、まとめついでに、最初の『お悩み相談』についてもまとめると…」

 

森田「あ、もうわかりました?」

 

Yさん「わかったわかった。田舎で一人暮らしの認知症のお婆ちゃんをどうするか。それは、本人の人生にとって何が大切なのか、本人も含めてよく話し合ったうえで、『本人の選択』を第一に考える。『本人の選択』を実現させるために上手に『依存先』を増やす。ということね。」

 

森田「簡単ではないですけどね。」

 

Yさん「そうね。簡単じゃない。…特に『地域で依存先を増やす』って難しいわよね。」

 

森田「そうなんです。そこをどう乗り越えるのか…。これ、実はソーシャルワークという分野につながっていくのですが…」

 

Yさん「う!またよくわかんない言葉が出てきた!」

 

森田「では、ソーシャルワークについては、また別でお話しましょう。というところで、今回はおしまい。(^_^)」

 

 

漫画 

今回の漫画は、手足が不自由で車椅子生活の双子の姉妹(遺伝性の難病によるもの)、岩崎絵里子さん・麻里子さんに書いていただきました。お二人は、熊谷先生と同じく上手に依存先を見つけながら、それぞれ別の賃貸住宅で一人暮らしを満喫されています。

 

 

 

岩崎 絵里子:従来型の医療・介護担当 

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岩崎麻里子:地域包括ケア時代の医療・介護担当

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 「地域包括ケアってこういうことだったのか!」

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財政破綻・医療崩壊・さらに高齢化率日本一。
悪条件に取り囲まれてしまった夕張市。
果たして夕張市民の命はどうなってしまうのか?‥。


破綻後に医師として乗り込んだ筆者は、
それでも夕張市民が笑顔で生活していたことに驚く。
事実、財政破綻後のデータは夕張市民に
健康被害が出ていないことを示していた。

「病院がなくなっても市民は幸せに暮らせる! 」

もしそれが事実なら、一体なぜなのか?

本書は、その要因について、先生(元夕張市立診療所所長)と
生徒2人の講義形式でわかりやすく検証してゆく。
夕張・日本・世界の様々なデータを鳥の目で俯瞰し、
また夕張の患者さんの物語を虫の目で聴取するうちに3人は、
夕張市民が達成した奇蹟と、その秘密を知ることとなる・・。

少子高齢化や財政赤字で先行きが不透明な日本。
本書は、医学的・経済学的な見地から日本の
明るい未来への処方箋を提示する希望の書である。

 

森田洋之 著

 

 

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