Dr.森田の医療・介護お悩み相談室

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県で診療・執筆・講演・研究・web発信などをしている。南日本ヘルスリサーチラボ代表、鹿児島県 参与(地方創生担当)

【医療経済学とは】〇〇〇が多い県に住むと医療費が2倍に!? 〜京都大学経済学部・特別講義〜

 

 

 

 

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こんにちは、森田といいます。みなさんは京都大学の学生さんですね。

 

3年生?・・あなたは4年生。あ、院生の方もいらっしゃる。そうですか。

 

学部は皆さん経済学部ですね。医学部はいない(笑)。

 

 

 

僕は医者なんですが、実は医者になる前は皆さんと同じ経済学部だったんです。

 

卒業してから医者になったんですね。

 

ですので、もともとはみなさんのお仲間だったんですね〜(笑)。

 

ま、その話をすると長くなるので、今日はカットしまして、早速今日の講義に入りましょう。

 

 

 これは2015年の6月の日経新聞です。

 

 

 

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(日本経済新聞2015年6月16日)

 

 

 

病床が今後20万床も削減される。

 

みなさんこのニュース知ってましたか?

 

ていうか、これだけ見ても意味わからないですよね。

 

だって、病院って僕らの健康を守ってくれる、絶対に必要なものじゃないですか。

 

いきなり20万減らしますよ・・って、

 

今の日本の総病床数が130万くらいだから、20万ってかなりの数です。

 

 

 

でも国は本気で言ってる。どういうこと?って思いますよね。

 

 

 

でも実は、僕がいた夕張市というところは、例の財政破綻で、市内の病床数がいきなり9割も減っちゃったんです。

 

もともとの市立総合病院が171床で、僕が勤めていた市立診療所は19床(笑)。

 

そんなに医療が減っちゃって、市民の健康はどうなったか?

 

 

 

実はほとんど健康被害はなかったんです。

 

しかも医療費は下がった。なんで?って思うでしょ。

 

実は、その答えはここにあるのかもしれない。それがこのグラフ。

 

 

 

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http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f450232/p613939.html

 

 

これは神奈川県のホームページに載っているものですが、

 

県民一人当たりの入院医療費が神奈川県は8万円台、

 

でも多い県は19万円となっています。

 

 

 

県民一人当たりの入院医療費に倍以上の差がある?

 

住んでる県だけでこんなに医療費に差があるなんて知ってました?知らないですよね(笑)。

 

・・いやいや高齢者の多い地方と都会を較べてもね〜・・と思うなかれ、

 

同じような地方県の中でも岐阜県・静岡県などはやはり9万円くらいと低医療費の県もありますからね。

 

一概に都市と地方の差、とか高齢化率の差だけではなさそう・・。

 

 

 

県民によって2倍も病気になりやすいのかな?

 

いや、そんなことないよな〜、じゃ、なんでそうなるのか?

 

 

 

今日は、僕がいた夕張市の話も含めて、

 

そんな、医療と経済の話を僕なりの解釈で説明したいと思います。

 

 

 

僕の話が正しいかどうかは、講義を聞いたあと自分で考えてみてくださいね。

 

大学の講義ってそういうもんでしょ?(笑)

 

 

 

 

 

夕張の事情

 

 

 

それでははじめましょう。まず夕張市のこと。

 

 

 

北海道の夕張市、夕張メロンで有名ですが、実はもともと夕張炭鉱という大きな炭鉱があったところです。

 

でも時代は変わり、エネルギーの主役は石炭から石油に、炭鉱は閉山となります。

 

 

となると人口は激減し、なんと今は最盛期の12万人から1万人にまで減っています。

 

仕事が無いと子育ては出来ませんので、若い世代から夕張を去る。高齢者は残る。

 

 

 

となると高齢化率はどんどん上がり、なんと今年2016年の夕張市の高齢化率は48%、

 

これは市として日本一です。その流れで2007年に夕張市は財政破綻します。

 

 

 

財政破綻でいろいろな変化があった夕張市ですが、

 

医療で言いますとそれまであった夕張市立総合病院171床が閉鎖となり、

 

同じ建物で19床の小さな診療所が運営されるようになりました。

 

病床数はおおよそ1/10ですね。

 

 

 

市内にはそこしか病床がありませんでしたので、

 

これは市内の病床が一気に1/10になったということでもあります。

 

 

 

医師も去り、外科とか小児科とか専門医療もなくなった。

 

しかも、今はCTもMRIも市内に一台もない。

 

救急病院もなくなったので、救急車が病院まで到着する時間も、30分台からほぼ2倍、60分台になりました。

 

この状況、ちょっと信じられないくらいの悲惨な状況に思うじゃないですか?普通なら(笑)。

 

 

 

だって、高齢化率日本一の中山間地で病院がなくなっちゃった。

 

救急車の病院到着まで2倍時間がかかるようになっちゃった。

 

 

 

もしあなたの町がこうなったら、みなさんどうしますか?

 

嫌ですよね〜!もっと病院の多いところに引っ越す、とか考える?

 

 

 

でも夕張市民、特に夕張の高齢者はそう思わなかったらしいんです。

 

というのも、これが夕張市の人口推移のグラフ。

 

 

 

 

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総人口は変わらずどんどん減っていますが・・

 

実は財政破綻の後でも減るペースは大して変わっていないですね。

 

 

 

特に注目して欲しいのが、75歳以上人口。

 

意外にも財政破綻など関係なくずっとじわじわ増えているんですね。

 

夕張の爺ちゃん婆ちゃんたちは、財政破綻・病院閉鎖、なんて関係なく、

 

何事もなかったかのようにずっと夕張に居続けていた、ということが分かります。

 

こういうのはしっかりデータに当たらないとわからないことです。

 

 

 

さらにこれ、夕張市民の死亡率です。

 

病院がなくなったら助かる命も助からなくなって、みんな早死にしてしまったのか。

 

実は、日本人の死因の1位ガン、2位心疾患、3位肺炎、見ていただくと分かりますように、

 

男女ともに大体下がっている。肺炎なんて男女ともにかなり下がっていますね。

 

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病院がなくなったら死亡率が下がる?

 

そんなバカのことあるわけ無いですよね。

 

 

 

そうなんです。実は、総死亡、トータルの死亡率で言うと、女性がちょっと上がって男性がちょっと下がって、

 

まあ総じて横ばい、というところでしょう。

 

 

 

ん?・・でも待てよ!そう。1〜3位までだいたい下がってるのに、総死亡は横ばい?

 

・・ということは、他に何か死亡率が上がってる病気がないと計算が合わない!

 

 

 

病院がなくなったから、なんか変な病気が増えたんじゃない!?

 

・・いえいえ、増えたのは『老衰』なんです。 

 

 

 

 

 

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「老衰」というのは、「病気」と言うより歳を重ねた末の自然死ですね。

 

 

 

ということで、まあ、少なくとも「病院がなくなっても健康被害はなかった」ということは出来るのかな、と思います。

 

 

 

ん?ちょっとまてよ?高齢化率日本一の街なのに病院がなくなっても大丈夫?

 

そんなわけ無いだろ!って思うでしょ。不思議ですよね。

 

 

 

ちょっと待って、不思議なデータはまだあるんです。

 

実は、救急車の出動回数が減りました。一時のほぼ半分ですね。

 

 

 

 

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全国的な傾向としては、ここ10年で救急出動回数は1.5倍に増えています。

 

1.5倍、そりゃそうです。全国的に高齢者の数は大幅に増えているんですから。

 

救急医療にかかる可能性の高い高齢者が増えれば、救急出動回数も増えるのは当たり前ですね。

 

 

 

でも、思い出してください。夕張市でも高齢者は徐々に増えていましたね。

 

それでも、救急出動が半減した。さあ、何ででしょう?

 

 

 

さらに、市内に一つだけある特別養護老人ホーム、ここでの看取り率、

 

つまり、病院に搬送された結果亡くなる、ではなくて老人ホームでそのまま亡くなる方、

 

これがもう100%まで達しちゃった。

 

 

 

さらに高齢者一人当たりの診療費、これも下がった。

 

 

 

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これは財政破綻前後の5年間の医療費の平均値です。

 

北海道全体で見てみると、以前は高齢者一人で診療費を約78万円使っていた。

 

それが今は85万円に上昇しています。

 

これは北海道だけでなく全国的な、いや、世界的な傾向です。

 

高齢者1人が使う医療費は世界的にどんどん増えているんです。

 

ま、これは高齢者ばかりではなく、若い人も含めて一人当たりの医療費は増えているんですけどね。

 

 

 

つまり、高齢者について言えば「数」も増えるし、それと同時に「一人が使うお金」も増えている。

 

医療財政にとってはダブルパンチなんですね。これが現状。

 

 

 

・・あの、みなさんいろいろ驚いてますけど、これ誰のせいでもない、全部データに基づく事実です(笑)。

 

・・で、夕張市は財政破綻後どうなったかというと、以前は81万円と北海道より少し高めだったのに、

 

今は76.9万円まで下がっているんですね。

 

北海道と比較すると1人あたり10万円くらい違う。

 

 

 

さあ、町から病院がなくなったら医療費も減った、救急車も減った。老衰が増えて、施設見取りが増えた。

 

 

 

これ、何でこうなるの?よくわからないでしょ?

 

うん、分からないよね。じゃね。隣の席の人とペアになってください。

 

お隣さん、いますね。いない?いなかったら混ぜてもらって3人で。

 

はい、もう大人なんだからね、仲間はずれにしない。はい出来たかな?

 

 

 

じゃ、今から3分間、何でこうなるのか、ちょっと意見を出し合ってみてください。はいどうぞ!

 

 

 

 

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(3分間)

 

 

 

はい、3分経過〜。さすが京大生、いろんな意見が出て活発に議論されてましたね〜。

 

 

 

OK、じゃ、続き行きましょう。

 

今から僕が考える、ストーリーをお話しますが、これが正解かどうかは分かりませんからね。

 

いろんなデータを元に自分で考える、これが大事。

 

 

 

 

 

 

 

世界の事情・日本の事情

 

 

 

 では行きますよ。まず世界と日本の現状。

 

・・・実は、我々人類は、その長い歴史の中で、これまで経験したことのない驚異的な高齢化社会を迎えます。 

 

 

 

 

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出典:社会実情データ図録 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1157.html

 

 

その中でも、日本はずっと世界一のトップランナーを走り続けるんですね。

 

日本は今ここですが、夕張は今ここ48%、すごいところに居る。

 

でも、人ごとじゃないですよ。あとちょっとしたら日本だって高齢化率40%に確実になるんです。

 

他人事のように夕張のことを笑っている場合じゃない(笑)。

 

 

 

国の財政の話をすると、実はいまの段階で、国の借金は1000兆円とか、

 

地方財政の借金まで合わせると1200兆円とか言われてます。

 

でも、高齢化率は今から倍増します、高齢者はこれからまだまだ増える。

 

じゃ、医療費も倍増するんでしょうか?

 

 

 

ギリシャの破綻はEUが、夕張の破綻は日本全体が救ってくれます。

 

じゃ、日本が財政破綻したら誰が助けてくれる?

 

 

 

 いやいや、さっきから高齢者が増えて医療費が増えるだとか、言ってますが、そもそも、医療の目的って何でしょう?

 

 

 

病院をたくさん建てること?医師をたくさん確保すること?高度な医療機器をたくさん揃えること?

 

 

 

いや、病院も医師も医療機器もただの道具です。

 

本当の医療の目的は、「健康で楽しい人生をなるべく長く」

 

しかも欲を言えば「なるべくお金をかけずに」ということじゃないかな、と思います。

 

 

 

でも実は、医療機器で言うと、日本は人口あたりのCTと保有台数はダントツトップ、

 

世界中のCTの1/5を買い占めています。これMRIでも同じ。

 

 

 

アメリカ・イギリスなどの先進国・・って言うと、高度医療が発達してる〜、って感じするでしょ?

 

でもCTで言うと、日本は人口あたりでアメリカの3倍、イギリスの10倍以上持っているんです。

 

 

 

これは病床数でも一緒、日本はダントツ世界一の病床保有国、

 

人口あたりでアメリカ・イギリスの4倍以上の病床を持っています。

 

 

 

じゃ、アメリカ人・イギリス人の4倍も病気になる?なるわけ無いですよね(笑)。

 

 

 

・・ただ、その手厚い医療体制のおかげで日本人は世界一の長寿国になった!

お金を使って医療体制を整えた分、健康になって寿命も伸びた、という主張もありえるわけです。

 

それはたしかにそうかもしれない。でも意外にそれだけではない、というデータもあります。それがこれ。

 

 

 

 

 

 

 

「病床」と「平均寿命」と「医療費」

 

 

 

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厚労省発表データより筆者作成

 

 

 

横軸に病床数と縦軸に平均寿命をとって、各都道府県がどこにいるか、という相関図です。

 

いっぱい病院を作った県、病床が多い県ほど寿命が長いのか・・?

 

 と言うと意外とそうでもないことが分かりますね。

 

逆に男性について言えばちょっと右肩下がりです。

 

 

 

それもそうなんですが、このグラフ、よく見ると変ですよね。

 

だって、県によって人口あたりの病床数ってこんなに違うの?

 

1番多い県は人口10万あたり約2400床、少ない県は約800床です。

 

 

 

じゃ、多い県の県民は3倍も病気になる?そんなことないですよね(笑)。なんか変ですね。

 

 

 

ちなみに相関係数というのは、「0」だと各点がバラバラに分散している。

 

「1」、「ー1」に近づくにつれて、それぞれ右肩上がり、右肩下がりに各点が集約して一直線に近づくよ、という数字です。

 

その相関係数が0.2前後なので、まぁ、「各県の病床の多さとは寿命は関係ないよ」というところだと思います。

 

でも、実はこの各県の病床数にものすごい相関関係を示す数値があるんです。

 

何だと思います?・・そう、もう分かりますね。それが医療費。最初に見たこのグラフです。 

 

           

 

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 http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f450232/p613939.html

 

 

なんと相関係数は0.96。

 

ほぼ一直線、一直線で右肩上がりに上がっていく、ということが分かります。

 

 

 

入院医療費の低い県は1年間に県民1人あたり8万円しか使わないのに、

 

高い県は2倍以上の19万円も使う、ということがデータとしてわかると思います。

 

これは入院医療費のグラフですが、総医療費とかでもだいたい同じような傾向にあります。

 

 

 

あれ?病人・怪我人、困った人がいるから、病院、病床が必要だ!というのが一般常識ですよね。

 

でも、病人・怪我人が県によって2倍も3倍も多いとか・・・多分そんなことないですよね?

 

・・・そう、そんなことない。でも実際に病床の多い県は一人当たりの入院医療費をこれだけ使っている、何でかな?

 

 

 

・・・あれ?そういえば、経済学の基本に、競争相手が増えれば、単価・価格は下がる、というのがありますよね。

 

地域にいっぱいラーメン屋があって競争が激しければ、ラーメンの値段は下がる。

 

ラーメン激戦区博多なんか今でも1杯200円台のラーメン屋さんもありますからね。

 

 

 

あれ?でもこのグラフと、逆の結果になってる?病院が増えれば、競争相手が増えれば単価が上がる?

 

・・これどうしてなんでしょう?・・・難しいですね〜。でしょ?すっきりしないでしょ?

 

 

ちなみに、この病床数と医療費の相関は、医療経済学の世界では常識らしいですけどね。

 

 

 

じゃ、さっきの2〜3人のグループで、これがどうしてか、なんでこうなるのか、考えてみてください。

 

はい、また3分ね。

 

 

 

 

 

 

 

(3分間、活発な議論が行われる。)

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

さすがの京大経済学部、ちょっと聞いてみたところ、いろいろな意見が出てましたね〜!。

 

今日ははるばる京都まで来た甲斐があります(笑)。

 

いや、本当はこれの原因は複雑なんですよ。

 

 

 

そもそも、このグラフの縦軸は単価じゃないですし、医療の価格は全国一律統一価格なんで、下がりようがないんです。

 

なのでちょっと意地悪な問題だったんですが・・

 

 

 

でもこのグラフの裏には、

 

「医師・患者間の情報(知識)の格差」

 

「収益を上げなくては経営できない病院経営の問題」

 

「通常の日常生活を送れない人を隔離収容してしまう日本の文化」

 

 

 

などいろんな問題が絡んでくるので、とても勉強になるんです。

 

よ〜く考えてみてくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

さ、じゃあ今度は、医療制度とか医療費とか上から目線の話ではなく、市民目線の話をしてみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終末期の医療

 

 

 

これは宮崎県にある「かあさんの家」という高齢者が集まって住んでいる、介護つきの「とも暮らし」の家です。

 

そこに入居して来た古川さん、末期の肺がんと認知症で、病院に入院していた時は「余命数週間」と言われ、

 

寝たきりで話すことも食べることもできなくなっていました。

 

 

 
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 http://www.nhk.or.jp/heart-net/tv/summary/2013-06/06.html

 

 

 

 

でも、病院を退院して「かあさんの家」に入居したら、1ヶ月で自分でご飯をモリモリ食べるようになった。

 

かつて高校の先生だった古川さん、認知症でも昔の記憶は蘇ります。

 

久し振りに教え子に会えば「一番暴れん坊だった」と涙を流します。

 

 

 

よくビックリされるんですが、実はこういうこと、結構あるんです。

 

これ、どういうことなんでしょうか。

 

「かあさんの家」に凄いリハビリの先生が居る?、いえ違います(笑)。

 

「かあさんの家」はリハビリ施設でも何でもなく、ただの生活の場です。リハビリ職員も一人も居ません。

 

つまり、古川さんは「生活の場」に戻っただけで元気になっちゃたんですね。

 

 

 

病院は「治療の場」です。そこでは安全・安心が基本ですね。

 

「ノドにご飯を詰まらせたら大変!」と絶飲食、「転んで骨折したら大変!」とベッドの上で安静に。

 

病院でなにかあったら大変ですからこれは当然です。

 

 

 

でも古川さんは安全・安心を得た代わりに「生活」を奪われて寝たきりになってしまった。

 

「生活の場」に戻っただけで元気になって、昔の教え子にも会えるようになった。

 

 

 

じゃ、一般的な病院ではどうか。やはり「安全・安心」の意識が強いです。

 

口から食べたら危険!となると胃ろう。肺炎を繰り返すとなると気管切開だったり、いろんな方法で医療的に管理される。

 

それで患者さんが、嫌がって管を抜こうとしたりすると、

 

ひどい時にはベッドから動かないように手足を縛られるなんてこともあります。

 

 

 

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入院患者の半分以上がこうした患者さん、という病院も実際にあります。

 

・・一体なんのために医療をしているのか。医療の目的ってなんだった?・・。

 

 

 

 

 

じゃ、ちょっとここで目線を上げて、世界の事情を見てみましょう。

 

こうした状況って日本だけの事情なのかな?

 

病床数で見ると、日本は世界一病床が多い国でしたね。

 

さっきの病床数の医療費のグラフの横軸だけに注目して、他の国を足してみるとこんな感じになります。

 

 

 

 

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ちなみに夕張はここですが、ま、夕張は置いといて・・

 

 

先進各国の病床数を見ると・・日本で1番病床の少ない神奈川県よりも病床はずっと少ないんですね。

 

 

 

実は世界各国、高齢化は凄い勢いで進んでいるんですが、ここ数十年で病床を減らしているんです。

 

特にスウェーデン、ここは凄いです。たった20年で病床を60%以上減らしました。

 

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なんでか?

 

かつてはスウェーデンにも病院に寝たきり高齢者がいっぱい居たらしいんですね。でも今は居ない。

 

高齢化社会にそれまでのように「医療」で対応したら、安全・安心の世界に高齢者を置いてしまったら、

 

みんなあまり幸せにならないんじゃない?

 

国をあげてそうした方向に行くことに決めたんです。

 

 

 

その代わりに「特別な住居」という2LDKくらいの介護付き高齢者住宅をたくさん作った。

 

もちろん、自宅でも生活できるように訪問看護・介護環境も整えた。

 

これが「エーデル改革」です。「治療の場」から「生活の場」ということですね。

 

 

 

もちろん、命を救う救急医療・急性期医療は絶対に必要なんですよ。

 

そこはしっかり確保されなきゃいけない。

 

でも、特に高齢になってくると、残念ながら医療で解決できないことだっていっぱい出てくる。

 

その部分を医療で解決しようとすると逆に幸せな世界から遠ざかってしまうんじゃない?ということですね。

 

古川さんみたいに。

 

 

 

古川さんはその後、ご自宅でお亡くなりになります。

 

最後まで救急車で救急病院に運ばれることはありませんでした。

 

ご自宅で愛する子や孫達に囲まれて最期の時を過ごし、安らかに永眠されたそうです。

 

 

 

ご本人・ご家族の最後の時間を大事にするためにも、

 

しっかりした救急医療を確保するためにも、

 

「残念ながら医療で解決できない部分」を知ることは、とても重要だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、殆どの日本人が自分の家で最期の時を迎えたいと言いますが、その夢は殆ど叶えられません。

 

8割の方が病院で亡くなっていますから。

 

一方、先進諸国では正反対で、オランダなんかだと病院死は30%台・・。 

 

 ・・・実は世界の趨勢はこんな感じなんですね。

 

 

 

じゃ、夕張はどうなのか、と言うと、まさにスウェーデンのような世界です。

 

こちらは「ご本人の生活」を第一に、限りある生命の灯を静かに見つめておられる夕張のご家庭の様子です。

 

奥の台所におられるのが奥様ですね。

 

 

 

 

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こうした医療、今までの医療の常識からするとちょっと変だけど、

 

「生命の長さ」だけでなく、「ご本人の生活」を重視するような医療。

 

これは財政破綻後の市立診療所を請け負った村上智彦先生という先生が作りあげたんですけど、

 

今、夕張市では病院がなくなった代わりに、

 

24時間対応の在宅診療、24時間対応の訪問看護、24時間対応の訪問介護、

 

全て揃っているんです。

 

夜中でも介護士さんが自宅に来ておむつ替えてくれるし、馴染みの医師・看護師が点滴もしてくれる。

 

 

 

 

もちろん必要な時は救急車で札幌の病院にも行きます。

 

ですが、それとは別に地域に「生活を支える医療・介護」がある。

 

これ、「家庭医療」とか「地域包括ケア」とか言いますが、そんな専門用語は置いといて、

 

病院医療の代わりにこうした身近な医療が普及したからこそ救急車が減ったのかも。

 

 

 

ま、そうなると当然医療費も減りますね。

 

施設でも同じように24時間対応で医師が駆けつけてその場で対応したり、お看取りするので、施設看取りも増える。 

 

夕張のデータは多分こういうことなんだ、と思います。

 

 

 

 

・・・でもね、本当に一番の成果は、こうしたデータではなく、

 

さっきの写真のような爺ちゃんたち、婆ちゃんたちのような素敵な笑顔を生み出せたことですね。

 

笑顔はデータになりませんから数字じゃ示せませんけど。

 

 

 

 

 

「医療の目的」って何?

 

 さ、最期に経済学部らしく、医療政策の話に戻りましょうか。これは、日本人の死因統計です。

 

 

 

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明治・大正時代は多くの人が肺炎・胃腸炎・結核などの「感染症」で命を落としていたことが分かります。

 

しかも、まだ平均寿命が60代くらいでみんな若い。

 

抗生剤を1週間点滴したらピシャっと治って社会復帰できる可能性が高い。

 

 

 

この時代であれば、医療はまだ「病院に任せときなさい、あとは何もたずねなくてよろしい」の世界でも良かったかもしれない。

 

患者さん側も「先生にお任せします!」でもよかったかも。

 

このイラストの左側の関係性ですね。

 

 

 

 

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じゃ、時代が進んで今はどうかというと、

 

死因はガラッと変わって脳血管疾患いわゆる脳卒中、悪性新生物いわゆるガン、それに心臓病、

 

1週間でピシャっと治るか、と言われたらそうではない病気ばかり。

 

医療で解決しにくい病気、上手に長く付き合わなきゃいけない病気を一つ一つ重ねて年をとってゆく。

 

この時代に「先生にお任せします」と言ってしまうと・・

 

そして医療側もそれに「全力で」答えようとすると・・

 

もしかしたら、先ほどの古川さんのように「安全・安心だけど寝たきり」になってしまうのかもしれない。

 

こうした段階の医療にお金を使おうと思えば、いくらでも使えます。

 

胃ろう・経鼻栄養・気管切開・中心静脈栄養、しかも手足を縛られてまで・・・・・・

 

 

 

アンケートを取れば、殆どの国民がそうまでして生きていたいとは思わない、と答えます。

 

でも実際にはそうした患者さんがいっぱいいるんです。

 

 

 

 

 

胃瘻は悪いこと?

 

 

 

こんな話を聴くと、「胃瘻なんて絶対イヤ!」と言って、それで話を終わりにされる方がいます。

 

でも、話を混ぜ返すようですが、胃瘻自体は非常に優秀な栄養管理方法の一つ。

 

「胃瘻しながらとても生き生きとしている人」だっているんです。

 

医療にはいろいろな形があり、いろいろな人がいる。その人に必要な医療の量は千差万別です。

 

ご本人・ご家族が真剣に話し合って、本当にこの医療が必要、とおっしゃられるなら、それは尊重されるべき。

 

 

 

しかし、実際にはそうした、本人のたっての希望という理由ではなく、

 

もはや本人の意思がわからない段階になって、

 

医師や医療機関にお任せしてしまった結果の延命医療が多いのが事実。

 

 

 

つまり、胃瘻が悪い、病院が悪い、◯◯が悪い、と誰かのせいにして終わり、という話ではなく、

 

「自分に家族に、本当に必要な医療」とはどんなものか・・・

 

みんなで一から考えてみることが大事なんじゃないかな?と思うのです。

 

 

 

「医療のことなんてわからない」と他人任せにせずに、「死」をタブー視せずに、

 

医療、特に終末期医療について「自分ごと」として、家族で、地域のみんなで、思いを語り合ってみませんか?

 

そうすることで我々はより一層、適切な地域医療体制を築くことが出来るかもしれない。

 

 

 

「自分に家族に、本当に必要な医療の量」が分かってはじめて

 

「地域に必要な医療の量」を知ることが出来る。

 

 

 

 

そこから始まらないことには、我々はかけがえのない医療資源を使い果たしながら、

 

どこまでも病院ばかりを求めてしまうでしょう。

 

 

 

 

 

・・国によって、県によって、地域によって、人口あたり病床数に何倍も差がある。

 

それに比例して医療費も何倍も上がってゆく。・・・一方で病床は20万も減らされる。

 

 

 

 

・・・こうした日本の現状背景には、もしかしたら今までお話したような社会の事情があるのかな〜、と思っています。

 

 

 

 

ね?面白いでしょ?医療と経済学ってとっても密接に絡んでいて、とっても興味深い。

 

医療だ経済だって言いだすと、だんだん話が難しくなっていきがちですが、社会が目指すべき目標は何?

 

みんなが楽しく笑って暮らせるにはどうしたらいい?学問はそのために何が出来る?

 

常にそんな風に考えていくことが大切かな、と思います。

 

 

 

これからあなた達はいろいろな業界で活躍すると思います。

 

大学で学んだミクロ・マクロの経済学をそこで活かすことも大事。

 

でも一方で、その業界が国民の幸福にどう関与しているのか、その業界の本当の存在意義がどこにあるのか、

 

自分の目で見て、多角的な視点で物事を考えてくれたら嬉しいな〜、と思います。

 

今日の話を聞いたら大体分かりますね。

 

 

 

はい、講義の最初と今ではみなさんの目の輝きが違いますね〜。

 

今日は本当にはるばる京都まで来た甲斐がありました(笑)。

 

ま、今日話したのは僕の個人的な考えなんで、あなた達の考えとは違うかもしれないですけどね。

 

もし今日の話を疑問に感じたら、どんどん現場を見に行ったり、対案を考えたりしてみてください。

 

しっかりとデータに基づいた対案が示せるなら、それだけで論文が書けると思いますよ(笑)。

 

 

 

 

 

 で・・・こんな内容の話が、この本「破綻からの奇蹟〜いま夕張市民から学ぶこと〜」にもっと詳し〜く載っています。

 

全編対話形式で簡単に読めますので、買って読んでみてくださいね。

 

というところで今日はおしまい。お疲れ様でした。

 

レポートも出してくださいね。よろしくお願いします。それでは〜!

 

 

 

〜 2015年11月16日 京都大学経済学部・特別講義〜

 

 

 

f:id:mnhrl-blog:20170316073204j:plain 森田 洋之 

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県でフリーランス医師。懲りずに執筆・講演・研究・web発信など儲からないことばかりやっている。日本内科学会認定内科医、日本プライマリ・ケア連合学会指導医。鹿児島県 参与(地方創生担当) 

 

 

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財政破綻により病院がなくなってしまった夕張市、
しかも高齢化率は市として日本一。
果たして夕張市民の命はどうなってしまうのか?‥。
しかし財政破綻後のデータは、夕張市民に健康被害が 出ていないことを示していた。

事実、夕張市民は笑顔で生活していた。
「病院がなくなっても市民は幸せに暮らせる! 」
それが事実なら、それはなぜなのか?

本書は、その要因について、先生(元夕張市立診療所所長)と
生徒2人の講義形式でわかりやすく検証してゆく。

夕張・日本・世界の様々なデータを鳥の目で俯瞰し、
また夕張の患者さんの物語を虫の目で聴取するうちに3人は、
夕張市民が達成した奇蹟と、その秘密を知ることとなる・・。

少子高齢化や財政赤字で先行きが不透明な日本。
本書は、医学的・経済学的な見地から
医療・介護・地域社会の問題を鮮やかに描き出し、
日本の明るい未来への処方箋を提示する希望の書である。

 

森田洋之 著

 

  

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詳細なデータが見たいという方はこちら
↓ ↓ ↓
「夕張市の高齢者1人あたり診療費減少に対する要因分析」
(社会保険旬報(No.2584, 2014.11.1)に掲載された森田代表の論文)
http://www.shaho.co.jp/shaho/teiki/junpo/j2014/20141101_morita.pdf