Dr.森田の医療・介護お悩み相談室

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県でフリーランス医師。懲りずに執筆・講演・研究・web発信など儲からないことばかりやっている。

【食べる覚悟とは?】絶食・胃瘻の人も実はたくさん食べられた!の第3話。

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登場人物

 

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森田先生:とりあえず何でも診る総合診療(プライマリ・ケア)の医師。40代。

 

 

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Oさん:75歳。元エリート公務員。プライドが高くすぐ怒る。

 

 

(こちらは3回シリーズの最終回です。)

1回目 ↓↓ 

2回目 ↓↓


 

 

 

森田「…実はもっと根本的な問題、今から説明する2つめの問題の方がより重要なのではないかと、僕は思っています。」

 

Oさん「それは何じゃ?」

 

医療者と患者の覚悟の共有

 

森田「一言で言えば『医療側と患者側(本人・家族)との覚悟の共有』という問題です。」

 

Oさん「覚悟の共有?」

 

森田「そう、ちょっと前にこんな事件がありました。」

 

「誤嚥事故訴訟・病院側と和解 遺族に600万円」
http://mainichi.jp/articles/20160813/ddl/k28/040/376000c

 

 

森田「入院中に一人で食事をしていた80歳男性患者さんが、おにぎりを誤嚥して窒息死してしまったことによる訴訟です。」

 

Oさん「それは気の毒に・・・」

 

森田「ですよね。でも実は、食べることって、常に一定のリスクを伴っていることなんです。皆さん大好きなお正月のお餅ですが、お餅を喉につまらせて、つまりお餅の『誤嚥・窒息』で亡くなる方だって、年間に100人くらいおられるそうです。その殆どがご高齢の方のようですが…。」

 

Oさん「そうなのか…それは何とかしないとな……。」

 

森田「そう、『何とかしないと』って思うでしょ。でも実は、そう思うOさんの考え方こそが、胃ろう・絶食に進んでいく要因なのです。」

 

Oさん「なに!?」


森田「だって、高齢者の『誤嚥』『窒息』のリスクを回避するために、医師は『胃瘻』や『絶食』を指示するのですよ。」

 

Oさん「むむ…!」

 

森田「たとえ食べる力が残っていたとしても、脳梗塞などで入院されてるようなご高齢の方の食事は100%安全とは言えません。どんな優秀な検査をしたって100%の保証は出来ないんです。リスクを恐れれば『絶食』という判断になりかねませんよね。『誤嚥』『窒息』を回避するための『安全至上主義』の傾向が強いとなかなか『口から食べる』ことに行き着きません。その状態が長くなると…だんだん気力がなくなってきて……」


Oさん「たしかに病院や施設に行くと、元気のなさそう高齢者がたくさんいるな。」


森田「日本の高齢者は介護・寝たきりの期間が世界一長いといわれていますが、その原因はそうして医師も患者もみんなが『誤嚥』『窒息』を恐れて安全至上主義に傾いてしまうことにもあるのかもしれません。」

 

Oさん「そうなんじゃな……。」

 

森田「『胃ろうなどの管で栄養されていた人の8割が実は食べられた!』という例の学会報告の背景には、こうした医療側・患者側双方の『安全至上主義』の影響があるのではないかな、と僕は思います。この学会報告をされた田實仁先生(注)は、こんな風におっしゃっています。」

 

『嚥下内視鏡検査は素晴らしい検査で、普及してほしいと思っていますが、全ての摂食嚥下機能評価が嚥下内視鏡ありきでのものだとは思っていません。内視鏡ありきでの検査になると、検査のための検査になってしまい、使い方が本来の目的と違ってきてしまう場合があります。むしろ禁食が増える可能性もあります。私達が行っているのは、『口から食べる』ことのリスクも説明したうえで、そのリスクを可能なだけ小さくしながら患者さんやご家族の希望や決断に専門家として真摯に向き合い、『幸せな生活』を支えることだと考えています。』

 

Oさん「そうなのか…検査も使い方次第で『禁食』が増えてしまうのか…。」


森田「そうなんです。探せばリスクはありますからね。しかし、田實先生の言われるように、そもそも医療は「安全」にもまして患者さんの『幸せな生活』を実現するための道具です。『嚥下内視鏡』も『胃ろう』も、「安全」に向かうには便利で優秀な道具ですが、それが患者さんの『幸せな生活』に貢献するかしないかは別問題です。」

 

Oさん「なるほど。」

 

森田「例えば、Oさんが『それでも口から食べたい』という強い思いと覚悟をもっているとしたら、その場合Oさんの『幸せな生活』の実現のためには『口から食べる』ことが大事。医療はそれをサポートするために有効な道具が何かを考えて、Oさんと一緒に悩んで選んでゆく。高齢になったら、こんな風に『上手に医療を利用』してくれたらいいと思います。」

 

Oさん「そうじゃな。実際にそんな人もいるのか?」

 

森田「もちろん、そういう方も居られますよ。連載の1回目でご紹介したこの写真のこの方もそうです。以前こちらのブログで、『胃ろうをひっこ抜いてくれ』と言われた方をご紹介しましたが、まさにその方なんです。」

 

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 ↓↓ 

www.mnhrl-blog.com

 

 

Oさん「『胃ろうをひっこ抜いてくれ』か!凄い人じゃな。」

 

森田「そうですね。この方は、脳梗塞が原因で誤嚥性肺炎を何度も繰り返され、結果、病院で『胃ろう』『絶食』となりました。今は、転院先の病院スタッフや歯科医師チームの『食支援』のお陰で胃ろうも抜けて、ご自宅で『全量経口摂取』されています。…でもですね、こう言うとめでたしめでたしに聞こえますが…実は嚥下内視鏡で検査すれば、しっかり『誤嚥』しているんです。」

 

Oさん「なに!誤嚥してるのか?」

 

森田「そうです。実は誤嚥してもしっかりとムセて出すことが出来れば、大抵は大丈夫です、すぐに誤嚥性肺炎になることもありません。彼も、誤嚥してはムセて出し、誤嚥してはムセて出し……という状態です。たまに誤嚥性肺炎にもなります。…ま、そんな状態ですので100%安全とはいえません。おそらく、『安全至上主義』で考えるなら『胃ろう』『絶食』が正解でしょう。」

 

Oさん「そうなのか!」

 

森田「そうなんです。『誤嚥』『窒息』の可能性はある。でも彼は、そのリスクを承知の上で、それでも『口から食べたい』という強い思いと覚悟を持っている。医療側は、彼の『幸せな生活』のためにいろいろなツールで可能な限り環境を整える、最悪の場合の覚悟も持っておく。『医療者と患者家族との覚悟の共有』というのはこういうことです。」

 

Oさん「医療者と患者の覚悟の共有か!」

 

森田「そうです。こちらは自宅で暮らす彼の笑顔。一人では寝返りすら打てないけど、彼自身の希望によりほぼ独居生活。それもすべて、彼の『幸せな生活』を実現するための形です。」

 

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Oさん「なるほど!いい笑顔じゃ!」

 

森田「医療は素晴らしい技術をたくさん持っていますが、患者さんの『幸せの形』はそれぞれ。医療技術が患者さんの幸せに貢献できるかどうかはケースバイケースです。そんな患者さんの"幸せの形"を実現するためには、リスクを受け入れる医療者と患者家族との『覚悟』も、時には必要なんじゃないかな〜、と思えてくるんですよね。」

 

Oさん「う〜む!なるほど!ワシも彼と同じで『口から食べる』ということに自分の人生にとって大きな意義があると思う、たとえそれで死んでも本望とさえ思っている!だから、たとえリスクがあってもワシは『覚悟』をもって『食べる!』そういうことじゃな!」


森田「そういう人もいていいと思いますよ。みんながOさんや彼のような覚悟を持てるわけではないと思いますが。」

 

Oさん「いや、高齢者は、少なからず多くの人がそう思っていると思うぞ。なかなか口にしないだけで。」

 

森田「そうかもしれないですね。でも、仮にそうだとしたら、これからはそれをしっかり口にしていかないといけないと思いますよ。だって、自分の人生の責任は自分でしか背負えないのですから…。そこを曖昧にしておくと、その判断は家族だったり、施設だったり、さらには病院・医師に委ねられることになります。そうして責任の所在が本人から遠くに行くに従って、どうしても患者さんの『幸せ』にもまして『安全至上主義』の傾向が強くなっていっちゃいますもんね。」

 

Oさん「そうじゃな!よし、今日は帰って早速、息子と娘に電話しよう。『ワシは死んでもいいから最期まで口から食べるぞ!お前たちに責任はない。おれの決断だ!書面にも書いておく!』とな。もう他人任せにはせんぞ!」

 

森田「そうですね。Oさんのような方が増えてくると、医療側も、もっともっと覚悟を持って接しないといけなくなるでしょうね。日本中の医療現場でそんな空気ができてくると、元気な高齢者がもっともっと増えてくるのかもしれませんね(^_^)」

 

 

 (おわり)

 

 

 

  

 

こちらもぜひ!【参考文献】

   ↓↓

口腔医療革命 食べる力 (文春新書)

口腔医療革命 食べる力 (文春新書)

 

 

 

(注) 鹿児島市の太田歯科医院・訪問歯科診療センター長 http://ohtadc-gp.jp/houmon/

 

 

 

 未来に残すべき

『価値あるアイデア』を。

 

 

 

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★★★★★★★★★

日本医学ジャーナリスト協会
優秀賞受賞作品(2016)
★★★★★★★★★

財政破綻により病院がなくなってしまった夕張市、
しかも高齢化率は市として日本一。
果たして夕張市民の命はどうなってしまうのか?‥。
しかし財政破綻後のデータは、夕張市民に健康被害が 出ていないことを示していた。

事実、夕張市民は笑顔で生活していた。
「病院がなくなっても市民は幸せに暮らせる! 」
それが事実なら、それはなぜなのか?

本書は、その要因について、先生(元夕張市立診療所所長)と
生徒2人の講義形式でわかりやすく検証してゆく。

夕張・日本・世界の様々なデータを鳥の目で俯瞰し、
また夕張の患者さんの物語を虫の目で聴取するうちに3人は、
夕張市民が達成した奇蹟と、その秘密を知ることとなる・・。

少子高齢化や財政赤字で先行きが不透明な日本。
本書は、医学的・経済学的な見地から
医療・介護・地域社会の問題を鮮やかに描き出し、
日本の明るい未来への処方箋を提示する希望の書である。

森田洋之 著

 

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